監禁

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男は考える。 この部屋から脱出するには、あそこの高い位置にある穴からは不可能。 可能性があるとしたら、このベルトコンベアが進む先だ。 と。 「いつまでここで死体食って生きるつもりなん?」 「知らない。」 「俺の前の男はこっから出てったんやろ?」 前の男が出て行ったと聞いたベルトコンベアの出口を男は覗き込む。 先は果てしなく暗い。 「そうね。別に、あなたも行きたかったらいけばいいじゃない。」 「なんで君は行かへんの?」 「ここでも生きられるから。」 「外に出たくないん?」 「外も中も一緒でしょう。ああ、でも強いて言うなら中の方が何も考えなくて済むからこっちの方が私は合ってるのかも。」 「そうなんや。でも怖いやん、いつ殺されるかわからへんで。」 「それはそうね。」 女は骨についた肉を器用に前歯で剥がしながら食べた。 口の周りには血がたくさんついていた。 指の先まで貪り尽くすと、綺麗に肉の無くなった骨を排気口に捨てにいく。 その後ろ姿はまるでゾンビのようだ。 床に飛び散った血を水で流し終え、男は水道の蛇口を締めた。 「なんで俺は食わんかったん?」 「切ってる途中で目を覚まして喚くでしょう、どうせ。」 「ああ、せやな。」 男は濡れていない壁際の地面に腰を下ろした。 女はベルトコンベアの側で横になり猫のようにうずくまった。 天井の穴を見上げる女と、女の視線を追って天井を見上げる男。 ノコギリの音も女の声も無くなり静かになると、 男は唐突な不安を覚え、考え事をした。 この部屋に来て何時間が経ったのだろうか。 自分は何故こんなところにいるのか。 いつものように仕事を終えて帰路についていたはずなのに、気がつけばここにいて隣で女が死体を貪っていた。 驚きはしなかった。何故なら理解が追いつかなかったからだ。 まずは女との距離を取り、ここが何処なのかを聞いたが女も知らないと言った。 自分も気がついたらここにいたのだと。 そして生きるにはこの死体を食うしかないのだと。 「行かないの?」 「もうちょっとしたら行くで。」 「あ、そう。」 次の死体が流れてきたのは男がウトウトと睡魔に襲われ始め蛇口の水が滴り落ちるのを100回ほど数えた時だった。
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