食事カスタム

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「食べる。食べたい。食べる。」 繰り返しの先でさらに繰り返しながら今箸を握ってる。 ここは近所の定食屋。 決まって頼むのはアジフライ定食で来るのは昼の13時10分。この店は注文から約15分で料理を運んでくるが、今日はやけに遅い。 「腹が減ったし、早く会社に...。」 そうぼやいた矢先に到着。 君の最終駅だよ。 海から潮を身体に擦り込み、今や油で作られた厚手の上着を着てる。最初に塩、醤油、最後にソース。だんだん味を濃くしていくのが定石だ、軍曹。 まず一口...、いや待て。とんでもないことをやらかすところだった。 「いただきます。」 試合前のルーティーンと同じだ。これを怠ったときの罪悪感はアジフライの味を損ねる。 気を引き締めてかからねば。 音を立てながら口の中でゆっくりなくなっていくアジフライ、後追いするように飛び込む白米、それらを総括する味噌汁。今日もいい連携技だ。 「あ...。」 水を用意するのを忘れてしまった。 さっきから今日は俺の調子が悪いな。 「すみませーん!お水もらえませんか?」 返事がない。誰もいないのか? 仕方なく立ち上がり厨房の入り口の前まで歩いて行く。 客は基本、俺以外いない。 ガラガラの店内に声が響く。 「店員さん!いないんですか?!お水もらいたいんですけど!」 中から包丁がまな板に当たる音、何かが油で揚がる音が聞こえる。 いないはずがない。 腕時計を見て気づいたが、昼休み終了まで時間がない。急いで水を。 我慢の限界に達し、厨房に乗り込む。しかし、そこには誰もいない。 確かに耳には音が今まで通り聞こえるが、なぜか中は真っ暗で何も見えない。 「客を馬鹿にするのもいい加減にしろ。」 小声でそんな強気なことを呟いたものの、内心は恐怖心にピッタリ抱きつかれていていち早くここから帰りたかった。その時だった。 スマホのアラームが鳴る。 昼休み終了の合図だ。 もう帰らなくては。 足早に厨房を出て、客の賑わう声に気付く。昼過ぎだぞ、なんでこんなに急に客が来てるんだ? しかもこんなに大勢の人が。 ポケットに入れたくしゃくしゃの2000円札を出してレジに置く。 「お釣りはいりませんので。」 そう言って店の扉を開けようとしたその瞬間、レジに金を取りに来たであろう店員が俺の背中に向かってこう言った。 「本日の新商品、アジフライはいかがだったでしょうか?」 俺は無言で店を出た。 正直、この店の対応には腹が立ったが、料理の味は格別だった。 いや、むしろ味にこだわり過ぎている店だから接客などがおざなりになっているのかもしれない。 だからまた明日も来よう。 新しい味のフライを求めて。
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