子孫のために★

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 寝台が激しく揺れる。  見事な蔦の模様が刻み込まれたところへ、必死に指をかけて体を支えては、ほっそりとした喉を反らせて王妃が鳴いていた。その下腹部はこぽりと膨れ上がり、上腹部の一部が膨らんだまま、前後に揺れている。 「ぁ、あ、あぁあっ、ひぅ、あっ……!」  ケリャ王の腕が、ジャノルの肩ごと抱きしめて、ぶるり、と腰を震わせた。 「へい、か」 「済まぬな、1回で足りんのだ」 「あ、ぁああッ、んァ、あ、あぁあ!」  一角獣の一族は、達するのが早い。  しかしそれが淡泊であることに繋がるかと思いきや、1回に注ぎ込まれる精子の量は、おぞましいと言って差し支えない。薄い水のような精子がたっぷりと注がれた後、子供ができにくい性質を補うためか、まるで餅菓子のように強い弾力を持つ、特別に濃い精子がべっとりと蓋をするのだ。  まだ子種を中に遺さないように、王は陰茎に特別な薄い膜をつけている。  しかし、それが中に入ると、まるで常に内部を圧迫されるかのようで、いつもの1回だけの性交でも、ジャノルはすっかり疲れ切ってしまう。  今夜はそれが、もはや3回目であった。 (おなか、の、なかで、陛下の、子種が。動き回ってる……!)  ぽっこりと膨らんだ腹を、支えようとしたケリャ王が引き上げる。先ほどより深く、王の逸物が腹の中にもぐりこんできて、ジャノルの体がピンと硬直した。 「ィ、ぁ……!!」  ガクガクと震えた細い足が、小刻みに寝台を叩く。 「……ジャノル」 「へい、か?」  ずるり、と腹の中から、王の逸物が引き抜かれる感覚に、ジャノルは思わず背後を見た。金色の髪の間から、何時もなら冷静さと穏やかさに、渚のように美しい青の目が、今ばかりは恐ろしい。  逸物を覆う膜が取り払われ、中にたっぷりと残された子種が、すぐさま侍従の手によって葬られた。子種がばらまかれることなどないようにするためで、ジャノルもすっかり、こうして誰かが居る性交には慣れていたし、疑問も抱かなかった。  とはいえ。 「今日は、本当に子種を注ぐ」  それは思わぬ申し出だった。 「へいかが、おのぞみなら……」  思わずそう答えたが、ジャノルの頬がゆっくりと赤く染まっていく。何となしに、侍従たちがいることが、気恥ずかしく思えたのだ。 「厭なら、別の日にするが」  優しく問われて、急にジャノルは心細くなった。嫌だと言えば、今までのケリャ王の振る舞いからして、そのまま今日は寝ることになるだろう。  指先から、体の中へ冷たいものが流れ込むようだった。子を望まれたこと、それが、夢のように消えてしまいそうに思えてならず、ふと気が付くと、ジャノルの頬を涙が伝っていた。 「ジャノル? 我が王妃、何か、なにか痛い思いをしたか?」  気が付くと、心配そうな声でケリャ王がジャノルを抱きしめていた。あたたかな体に包まれて、ジャノルの目からこぼれた涙が、ほろほろと数を増やしていく。 「いいえ、いいえ……怖かったのです。お子を産もうと、元気な子を御産みしようと、考えてよいのですね?」  今まで避妊をしてきた理由は、国境の状況によるものだった。  ケリャ王が治めるアバールは内陸に位置するが故、多くの国と陸続きだ。その国の1つ、ブトゥーグ共和国にて、内乱が頻発していた。難民はアバールにも流入しており、噂にも分かるほどかの国は混迷を極めていたが、最近になって集束の兆しが少しずつ見え始めていた。  万が一、内乱の被害がアバールにまで広がれば、不安定な中でジャノルが動けなくなる。それゆえ選ばれた避妊であり、今までジャノルは子のことを考えないようにしてきた。  しかし今、王から望まれている。  子を産んでほしいと、願われている。  そのことが、酷く嬉しく、恐れ多かった。 「ああ、我が妃よ。産んでほしい」    ついに頷いたジャノルの背をもう一度後ろから抱きしめて、その背に何度も口付けた。されたことのないふるまいで、ジャノルが困惑気に振り返ろうとする。  けものびとの体はそういう気分にさえなっていれば、ほとんどはすぐさま相手を受け入れても問題ない。相手との前戯を楽しむこともあるが、それはあくまでも、そういう気分にさせるためのものだ。 「もう入れてよろしいのに……」  焦らされている気分になって、思わずジャノルの腰が揺れた。  その瞬間、今度は何もつけずに、ケリャ王は自身の逸物を彼の中へ突き立てる。ねっとりとした粘膜がそれを包み込み、腹の奥底の壁が迎え入れるように小刻みに震える。 「ぁ、あッ、あ、あつい、あぁっ!」 「ジャノル。我が妃、受け止めてくれ」  ぴったりと壁奥へ押し付けると、ケリャ王は三回ほどゆすってすぐに、精を解き放った。 「ひぃ、っ、ぃいぃぃあ!?」  肉壁にたたきつけられた精液が、ぐるぐると渦を巻いているのが、ジャノルには分かった。柔らかな逸物で押し広げられた体内を、より一層、じんわりと精液が押し広げていく。  どくん、どくん、と、背中から伝わるケリャ王の心音と、注ぎ込まれる精液の速度は、ほとんど同じだ。 (ああ、陛下の、命を、いただいているのだ……)  そう思うほどに、腹の中に注がれるものが、愛しくてならない。そんな気持ちになったことはなく、ジャノルの体は何度も高みへ上り詰め、達したまま戻らない。 「ぁ、ぁああっ、あっ、あーっ!」  ただただ声が漏れてしまい、どうしていいか分からない。と、その時だ。  どぶ、と、音がしそうな衝撃と共に、最後の蓋をする役割となる精液が注がれたのが分かった。 (ああっ、お腹が、おなかの中が、いっぱいになって、それが、それが消えていかないっ……!)  背筋をびくびくと震わせたまま、ジャノルは声も無く寝台へ崩れ落ちた。子種が腹の中で揺れているのがはっきりと感じられて、体を動かすたびに新しい感覚がさざ波のように広がる。 (力んでしまいそうになる、でもそうすれば、陛下の命が、流れ出てしまうっ……)  力むのを我慢すればするほど、子種が奥へと流れ込んでくる。冷たいものがじんわりと中に広がり、それがどんどん、どんどん、体の内側に入っていく。  そしてついに、ジャノルの意識が、ぷつん、と途切れた。  軽い音を立てて突っ伏した妃へと、すぐさま駆け寄ったのが、控えていた医師だった。子種を注ぐとケリャ王が言い出したその時から、何かあった時のために呼びつけられていのだ。  慎重に体を横たえさせ、手首から脈をとりながら、 「……気を失われただけのようですな。回数が多すぎますぞ、陛下」  と、嗜める医師に、ケリャ王はどこか、機嫌よさそうに微笑んだ。 「なるほど。では次は、一度にしよう」 「そうしてくだされ。妃の腹を破るおつもりか?」 「分かった、約束する」  ぐったりと意識を失ったまま、ピクリとも動かないジャノルに、侍従たちはあれやこれやと手当を施す。起きたら恥ずかしがるかもしれないが、そうも言っていられない。  未来の姫や王子がこれで生まれるのかもしれないのだから、きちんと手当をするに越したことはないのだ。  眠るままの王妃の頭を今一度撫でて、王は湯浴みへと向かうのだった。
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