やっぱり君のことが好き

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「……お、おはよう……さん」 「……ん。休みの日ぐらいゆっくり寝てりゃいいのに」 「普段から早ぇんだからよ」──そんな風に言いながら大きな掌でこちらの髪をくしゃくしゃと乱して、ベッドに腰掛ける体勢を取ると、「……朝メシ、卵1個で良いか?」──そう尋ねてきた。  朔夜の言う卵1個とは朝食のメインであるベーコンエッグを指してのことだ。朔夜が泊まりに来ると大抵の場合、翌朝の調理担当は朔夜になるのだが、そのほとんどがパン食である。  トーストの付け合せにベーコンエッグを添えてくれるのだが、朔夜が2つ以上卵を食べるので、〝お前は何個食べるんだ?〟という意味合いを持って聞かれるのだ。  もともと朝食はコーヒーのみで済ませているためそんなに食べる習慣がない自分は『ベーコンエッグの卵は一つ・トーストは一枚』でオーダーしているのである。  何度聞かれても同じ回答なのだが、毎回朔夜は律儀に聞いてくれるのだ。  こちらの悩みなどつゆ知らず、普段通りすぎる態度の朔夜に拍子抜けしたのは言うまでもない。 「えっ……? あ、うん。……ええよ?」 「おー……」  緩慢な動きのままベッドから立ち上がった朔夜の後ろ姿が視界に映り込む。そこにくっきりと刻まれた幾重にもなる情事の痕──もちろん、つけたのは自分自身だ。しかし、つけられた当人である朔夜は特に気にする様子もなく、寝癖のついた髪をわしわし掻きながら「しばらく待ってろよー」──そんな言葉と共に寝室を出ていってしまった。  朔夜の姿が見えなくなると同時に、深く長い溜息が自然と溢れ出る。息を吐ききってから枕の上に突っ伏した。 (なんや俺ひとりで悩んでアホみたいやわ……こんな──)  どんなに思い悩んでも、朔夜を好きだという事実が覆るわけではないのだ。その証拠に──。 (寝起きにチューしてきてあの顔は反則やろー……って! どんだけ単純やねん、俺は)  さっきまで〝これで本当にいいのか〟だの〝朔夜は幸せなのか〟だのと、もっともらしく悩んでいたのはなんだったのか、そんなことは綺麗サッパリどこかへいってしまった。  朔夜の無意識の行動一つで、嬉しくなり、幸せを感じ、彼を愛おしむ気持ちが溢れ出る。  そんな自分の想いを再確認して、さらに深くその場に顔を埋めるようにした。 (やっぱり俺は、朔夜のことが好きや。……どうしようもないくらい)  反芻した想いは誰に聞かれることもなく、ただ静かに己の心の中深くへと、ゆっくり沈んでいった。
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