やっぱり君のことが好き

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「四楓院せんせー、さよーならー」 「おー、気ぃつけて帰りよー」  放課後──廊下ですれ違う生徒から手を振られ、つられるように手を振り返した。  ちらりと腕時計に視線をやると、時刻はもう十六時を指している。  それでも〝まだ急がなくていい〟と思うのは、初夏を迎え日が長くなり、うら高い陽の光が視界を眩しく灼くからだ。  この後は保健室に戻って机の上を整頓して、薬品棚の鍵を確認したら帰宅しても大丈夫な手筈になっている。特別急ぐ理由もないとマイペースに歩いていると、スラックスのポケットの中で携帯が震えた。  携帯を取り出して廊下の端に寄り、壁にもたれるようにしてそれを開く。 【新着メール 一件】──ディスプレイの真ん中に表示された一文を確認して操作する。  携帯の受信ボックスは項目ごとに振り分け機能を使っていて、【学校関係】【生徒】【私用】と分けているが、その中でひと項目だけ特別な項目があった。そこを開くと未開封のメールが届いている──タイトル欄には【今日】と書かれていた。  メールボックスは一覧が表示されて日付ごとに届いたメールが並んでいるが、この項目だけタイトルはたいてい〝今日〟か〝明日〟である。  使い慣れた人間ならば色々なタイトルをつけるのだろうが、この項目に振り分けられる〝彼〟からのメールは実にシンプルだった。  中を見ても殆どの場合は一行しか書いていない。いわゆる〝用件のみ〟というやつだ。 『そっち行って泊まる。明日は休み』  タイトルが「今日」だからその続きをたった一行添えてある簡素な内容に思わず苦笑する。それでも彼からしてみれば、この半年ほどで操作が上達した方なのだ。それも大いに。 「〝わかった、夕飯作って待ってるわ〟──と。これでええかな」  返信欄に手早く入力を済ませ、ぽちりと送信ボタンを押した。メールが紙飛行機になって飛んでいくアニメーションが五秒ほど流れ【送信完了】と一文が表示されたのを確認してから携帯を閉じると再びポケットに端末を仕舞う。  予定が決まればあとは早めに行動するのみ──さきほどとはうってかわって今度は足早に保健室へ向かう。さっさと雑務を片付けて帰りにスーパーに寄らなければ──そんなことを考えた。
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