やっぱり君のことが好き

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 十九の頃から一人暮らしを始めたが、自炊はそれよりもっと前からやっていて、得意の部類に入るのではないだろうか。いつもより多目に食材を買い込んで帰路につく。  帰宅してダイニングテーブルに買い物袋を置くと、まずはラフな部屋着に着替えた。手を洗って食材を冷蔵庫にしまう。  一人暮らしに似つかわしくない大型冷蔵庫は六ドアのもので、いままで買い物をした生活家電の中でパソコンの次に高価な物だった。  中央の大きなスペースに並んだフードコンテナの中には種類豊富な常備菜と作りおきの千枚漬けがある。今日は和食、明日は洋食──人が増えるぶん料理の内容を変えられるのは楽しい。さっそく調理に取り掛かった。  調理を開始して一時間ほど経ち、あとは汁物だけという頃合いになって玄関の開く音が聞こえた。ぺたぺたと廊下を歩く音がしてリビングの扉が開かれる。肩越しに振り返り「おかえりー」と一言告げれば、少しだけ照れくさそうに視線を彷徨わせた朔夜が「……ただいま」と小さな声で返事をした。  真っ直ぐこちらに向かって足音が響き、背後からしっかりと抱きしめられる。初夏の空気を纏った身体は少しの火照りを携えていて、項に顔を埋めるようにした朔夜の唇が悪戯にその場所に吸い付いた。ちゅ、と小さなリップ音を鳴らして離れると「腹減った」──そうポツリと呟く。  高二になり一学期半ばの進路希望調査で卒業後の進路に就職と記入した朔夜は、一学期後半から短期インターンに参加している。学校側が用意した、いわば職業訓練のようなものであるが、同一系統の希望業種毎に班を決め、初日に進路指導担当教諭が引率をして以降は生徒達だけで企業に出向き就業することになっている。  集団行動が苦手な彼がこの短期インターンを希望したことに内心驚きはしたものの、本人が決めたことなら口出し無用とばかりに成り行きを見守っているわけだが、成長期真っ盛りの身体は正直のようで、疲れより空腹を訴えてくるのが可愛らしい。  ほんの少しだけしまりのない顔をしながら項垂れたままでいる彼の頭をそっと撫でた。
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