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前歯と犬歯が肉に食い込む。5センチはあろうかという厚さ。塩麴で柔らかくなった筋繊維がぷつぷつぷつんと音を立てて切れていく。舌はすでに塩味で引き出された豚肉と脂の甘さを拾い上げている。噛みちぎるというより、噛み切るという感覚であった。肉にはきれいな半円の噛みあとが残っている。そこからにじみ出る肉汁を眺めながら、ゆっくりと口の中の肉を咀嚼した。目の前の光景よりも激しく、あふれ出す肉汁が口内を満たす。肉のうまみの甘美なこと! 蜂蜜が隠し味に入っているのだ。鼻から息を吐けば、ニンニク醤油の香ばしさが、次に麹の優しさが、そして最後にローズマリーの爽やかさが熱と共に鼻腔を駆けていく。熱いのもあって口から息を吸えば、舌の上ですら香りは踊る。しばしその暴力的な美味しさに浸った。指の熱さなどとうに忘れている。
幸せな息を吐いてから、もう一口。今度は脂身、今にもとろりと崩れそうな所へ噛みついた。じゅんわりと舌に絡みつく脂の魅力からはもう逃れられない。甘くて、とろぷると舌の上でとろけて消える脂。脂そのものであるというのにしつこさはなく、まるで酒を飲むような陶酔感に目を閉じる。脂だ、世間では取りすぎてはいけないと叫ばれ、健康オタクからは目の敵にされている動物性の脂。もう一口。小さいころ、脂身は苦手であった。今もそう得意ではない。しかしこのスペアリブの脂だけは別だ。麹とニンニクのうまみを吸い、醤油の香りをまとった、ふわふわとやわらかいこれは全く別だ。舌が、鼻が、脳が、体がこれを強く欲している!
美味しい、涙が出そうなほどに美味しい。顔がだらしなく緩み紅潮しているのがわかる。もっと欲しい。もっと。欲深く背徳の脂をすすり、吸い付き、手を伝う滴を舐め取る。夢中である。脂身と筋膜と赤身の層を一度に口に放り込み、こんがりした濃い飴色の骨をしゃぶる。骨膜まで剥がしてしまえ。ためらわず放り込め。全霊は今、この骨付き肉に注がれているのだ!
肉! 肉! 肉! 旨さに、美味さに支配される。血が沸き立ち、頭が真っ白になるほど!
食の快楽ここに極まれり!
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