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エマの気を惹きたくて、何か面白そうな話題はないものかと、あちらこちらを見回した。
興味をそそるものといえば、エマの脚だ。
もち肌の綺麗な脚で、ずっと見ていても飽きない……もとい、健康的なおみ足で、車いすに乗らなければならないほどに痛めているようには見えなかった。
桃色ポーチを太ももの上にちょんと置き、両手をちょこんと添えて座っている姿が愛らしい。
胸まである長い髪には、かわいらしい髪飾りをつけている。
宝石で模った花びらや、揺れるたびにハートがコロコロ動くものが目を惹いた。
「エマの髪には綺麗なものがたくさんついてるな」
左耳からつむじに向けて、約八センチのヘアピンを挿しており、首の後ろでねじった毛束をピンで留めて、毛先を胸に下ろしている。
「スワロのビーズ、集めているの」
「へぇ、これビーズなんだ。高いの?」
「桜色のヘアピンが五百円、ハートのが七百円、ユコトのよだれがついたのは二千八百円」
エマは得意げに値段を言った。
「あのクリップめ……、なかなかの値段だな」
「誕生日に何かプレゼントしてくれるの?」
エマが声を上擦らせて聞く。
「べ、べつに貢ぐつもりで値段を聞いたわけじゃないぞ?」
「女の子にやさしくしておくと、後でいいことがある」
エマはよだれクリップが入った桃色ポーチをぽんぽんっと叩いた。
スタッカートをきかせたエマの口振りは、俺に強迫観念を抱かせた。
「一応聞くけど、エマの誕生日っていつ?」
「それが残念なことに、十一ヶ月前に終わっちゃいました……」
「そうかー……ん? そりゃ来月ですって意味じゃないか!」
エマがぴょこんと縮こまる。
このままではエマに高価な髪飾りを買わされてしまいそうだ。
俺は軽くしわぶいて、話題を変える事にした。
「今日からバイトなんだけど、何すんの?」
「ヒミツ」
エマは脚をさすりながらくすくす笑った。
どうしてエマが車いすに乗っているのか知りたかったが、今からするアルバイトでこうなりましたなんて言われたら、お先が真っ暗闇である。
「車いすに乗ってるからビックリしたよ。脚、だいぶ悪いのか?」
「ううん、ちょっとうまく動かせないだけ」
エマはそう言って、脚を揉んだりさすったりする。
「そうか、オレでよければいつでもいえよ。思う存分、揉んでやるからな!」
エマの脚は女子に興味のある人間ならば必ず目がいく事だろう。
単に短いスカートのせいじゃなく、己の意思ではどうにもならない魅惑という名の強い魔力を秘めているのだ。
それをスケベ心と片づけてしまうには軽率で、目をそらす事が困難なほど、色・艶・形が美しい。
これが怪我人の脚なのかと叫びたくなる脚なのだ。
エマがスカートの裾をちょんちょん上げて挑発的してきた。
「さわらせてあげよっか」
「本当にっ?」
「さわれるものなら……さわっていいよ?」
俄然、胸がドキドキしてきた。
触りたいという欲望ではち切れそうだが、「さわれるものなら」というエマの言葉が一抹の不安を感じさせた。
これはエマの冗談で、俺をからかっているだけかもしれない。
しかしながらこれはエマの据え膳で、男としての度胸を試されているのかもしれない。
ここで怖じ気づいて、この夏ずっと駄目男のレッテルを貼られるくらいなら、いっその事スケベ男の異名を取った方がましである。
俺はエマの様子を窺いながら、右肩ごしに腕をそっと下ろしてみた。
そうすると、エマが腕をペチンと叩いて軽くいなした。
そういう事かと理解して、ありとあらゆる方向から腕を繰り出してみたけれど、すべて撃退されてしまった。
そこで俺は脚を諦め、バスト目がけて素早く腕を振り下ろす。
「ダーーッ!」
これはもらったと狂喜したがその瞬間、エマが俺の腕に噛みついた!
「いっでえ!」
動きが機敏で隙がない。
「上半身は元気だな!」
「ありがとう!」
自分の貞操を守り切ったという満足感なのか、エマの笑顔が炸裂した。
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