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互いの想いを伝え合うこと、求め合えること、傍にいられることが嬉しくて、幸せを感じられる。
もう一度名前を呼ぶ。
顔を上げた月冴の──髪に触れ、頬に触れて誘いかけるように撫でれば、自然と伏せられる瞼。その先で長めの睫毛がふるりと震えた。
静寂に囲まれて二人だけの世界を意識する。煩いくらいに鳴り響く心音が、高揚感を連れてくる。月冴の唇に触れるまで──あと数センチ。
「……お兄ちゃん達、なにしてるのー?」
「「──……ッ!!!」」
間近で響いた声に驚いて、思わず抱き寄せていた月冴の身体を向こう側へと押し返してしまった。こんなことになるなど、誰が想像できただろうか。
声の主はさきほど月冴と遊んでいた子供達であった。
この先の出入口から帰ろうとしていた道すがらで月冴の姿を見つけ、寄り道したのだろう。押し返された反動で我に返った月冴は、頬を赤らめてそっぽを向いた。
「ッ、あ、……いや、えっ、と……」
「どうしたのー? 顔真っ赤だよ、お兄ちゃん」
好奇心を抱いた子供というものは、時として残酷なほどはっきりと事実を指摘してくる。子供達に覗き込まれるようにされ、月冴は赤くなった顔をますます俯かせてしまった。
別にやましいことをしていたわけじゃない。ただ彼を抱き寄せてキスをしようとしていただけ──もっと正確に言えば唇に触れてもいない。
そう、この状況はほんの少しの油断が招いた〝予期せぬ事故〟だ。
どうにか誤魔化さねばと思考を巡らせ適当な言い訳を思いついたまま口にする。
「……ゴミが」
「ごみー?」
「そう。このお兄ちゃんの目にゴミが入ったって言うから見てやってたの。……な? 月冴」
笑顔を作ることが苦手だから、さぞかし真面目くさった表情になっていたに違いないが、そういう顔の方が説得力があるだろう。
月冴の頭に手を置いてくしゃくしゃと髪を掻き乱しながら同意を求める。
「う、うん、そう。もー、目が痛くてさぁ! 参っちゃったよねー」
あはははは──そんな乾いた笑いを聞いて、訝しげな表情を浮かべながらも子供達は顔を見合わせ「ふぅ〜ん?」と概ね納得したような返事をしてくれた。
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