はじめての贈り物

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「……決めたのか?」 「うん。まぁ……明日も補習だし渡すのは夕方とか遅くなりそうだけど」  ベンチから立ち上がり、スクールバッグの中をちらりと覗き財布の所在を確認する。昨日新しく小説を買ってしまったばかりだが、月冴のプレゼントを買うくらいの額は残っているはずだ。  朔夜を追って都心に出てきてしまったから、このまま買いに行き綺麗にラッピングしてもらってバッグに入れておけば、家に忘れてくることもないだろう。 「ありがと、話聞いてくれて」 「人選ミスだったけどな。まぁ……決まったんならいいけどよ」  朔夜の方に向き直り礼を告げると、当の本人はやれやれと後ろ頭を掻きながらベンチから腰をあげた。  スクールバッグを肩にかけ、空になった炭酸水のペットボトルを今度はゴミ箱の近くまで持って行き、捨てるとこちらに向き直る。 「帰んのか?」 「いや、このまま買いに行きますよ。そういうアンタは? やっぱ、先生のとこ?」 「……まぁ、な」 「別に照れることないでしょ、付き合ってんだし」  視線を外しながら先ほどと同じように後ろ頭を掻く朔夜を見て、〝案外カワイイ性格してんだな〟──そんな喉まで出かかった揶揄いをどうにか押し留め、公園の入口で朔夜と別れると、人の賑わう繁華街へと向かう。  日中とはいえ冬の日差しは弱く、しっかりと着込んでいてもどこからともなく肌が冷える。  カーディガンの袖を引っ張り、両掌から指先を擦り合わせながら、繁華街の中心にあるアーケードの中を進んでいく。  軒を連ねる路面店は多種多様で、老若男女問わず賑わいをみせていたが、ふと──とある店の前で、道往く自分の足は自然と止まった。  店舗の入口に並ぶように嵌め込まれた小さな小窓──その中に飾られた、瑠璃色の石。横に置かれたポップボードには繊細な書体で『大切なあの人へ』と書かれている。  こういった謳い文句を飾る店は百貨店でよく見る宝石店の類だ。学生の小遣いで宝石など買えるわけがない。分不相応だと店先から離れようとした時、店内から話し声が聞こえた。
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