はじめての贈り物

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「あ……え、っと……その、……プレゼント用にって……できますか?」  緊張して上擦ったような声が出る。自分の声帯であるはずなのに、まったく違うもののような。たかだかアクセサリーひとつ買うのに、だ。自分の為の買い物ならばここまで緊張することなどないというのに。 「無料ですと袋でのラッピングで、有料ですとお箱でのラッピングもご用意できますが?」 「……じ、じゃあ、箱で」 「ラッピング代で一〇〇円頂戴しますね。箱につけるおリボンシール、赤と青がございますがどちらがよろしいですか?」 「えっ、と……青、……かな」 「かしこまりましたー。有料のお箱でラッピング、おリボンシールは青ですね。お会計済み次第ご用意致しますので、店内でお待ちくださーい」  会計を済ませ、溌溂とした店員の声に背中を押されるようにしてカウンターを離れる。いつの間にか、店内には数名の客の姿があった。  制服を着ている者もいれば、互いに腕を組み、仲睦まじげにアンティーク風の指輪を手に取るカップルの姿もある。制服で、しかも男一人で店内にいるのは肩身が狭いと言うべきか、なんとも居た堪れない。けれど、せっかく買った月冴へのプレゼントを受け取らずに帰るわけにもいかないから、店員から声がかかるまで店の隅でおとなしく待つことにする。  読みさしの小説を開くか、それとも翌日の補習に備えて英単語帳でも開くか無駄に迷っていると「ラッピングでお待ちのお客様ー」と店員から呼び声がかかる。結局なにもできぬまま再びカウンターに足を運んだ。  品物を受け取り足早に店から出ると、アーケード内にある馴染みのカフェに向かう。チェーン店だが芳醇な味わいのコーヒーを飲むことができるのが気に入って、都心に出てきた時は毎回のように利用しているのだ。  レジで注文したホットコーヒー片手に店内奥のシングル席に身を寄せると、そこでようやくひと息つくことができた。無駄に緊張していたせいか、心なしか頭が痛い気がする。思わず蟀谷を人差し指で押した。ツキリと痛んだかと思えば、指を離すのと同時にじんわりと引いていく。何時間本を読もうとこんな状態になることなどないというのに、慣れないことはするものじゃない。  テーブルの上に置いた、紙製の手提げ袋──そちらに視線を向けつつコーヒーをひと口含む。    これを見て、彼はなんと言うだろうか。クリスマスプレゼントではなく誕生日プレゼントだと告げたら、「いまさらかよ」と──困ったように笑いながらも受け取ってくれるだろうか? 喜んでくれるだろうか? 「来年はちゃんと祝うから」と取り繕ったら、素っ気ない態度を取ってしまったことを、許してくれるだろうか。 (気にしだすとあれこれ気になっちまうな……柄にもなく)  月冴と共に過ごして得たものは多く、どれも大切なのだと思い知らされる。特に、滅多に動くことのなかった自分の感情の起伏には驚かされるばかりだ。月冴のことを思うだけで一喜一憂するのだから。  それでも──自らの変化に嫌な気はしない。むしろ──。 (ちょっとは……青春ってヤツ、できてんのかな)  都合のいいように解釈したあと温くなったコーヒーを啜ると、ほのかな酸味が口の中に広がった。
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