ふたりの想い出 1

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ふたりの想い出 1

 世界は深く、夜闇に沈んでいた。天空にさんざめくように輝いているはずの星の(きら)めきが、この海上まで届くことはない。  ここは魔の海域。昔、『三日月列島』へ向かう唯一の航路となっていたグリエフ海南東域である。 「生命を削るほどに無理はしない、そう約束してくれたのはいいが」  テロンは、安堵のため息とともに言葉を発した。 「魔力(マナ)を生命維持のぎりぎりまで遣い切ることに長けてしまっては、困るんだけどな」  ウルルルゥゥゥルル。  彼の足下で、『海蛇王(シーサーペント)』ウルが同意の()き声をあげた。もし頭上に彼らを乗せていなければ、盛大に頷いていたであろう。魔導の力を遣いきって昏倒したルシカの身を案じているのは、ウルも同じなのだ。  テロンの腕のなかで眠り続けるルシカは、彼への信頼ゆえに無防備であどけなく、幼い頃の記憶をよみがえらせる。  夜明けまではまだ時間がある。最愛の相手の寝顔を見つめながら、いつしか、テロンの想いは遥か過去に(さかのぼ)っていった。
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