たべてもたべても

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僕は食べても食べても満たされることはない。 ところで、愛とは強迫観念である。私の心には他人の心が防波堤を襲う波のように絶えず迫ってくる。私は波に合わせて防波堤を高くせねばならぬ。 私が食べているとき、禁欲的な宗教が初めて肉体に触れたときのように、吐き出された欲望が堰を切って流れ出し、私をつきうごかしている。当初は、濁流に飲み込まれたと思っていたものが、実際には、濁流に向かって身一つで乗りだしていて、身体が切り傷だらけなのを私は知らない。 私が食べているとき、骨に栄養を与えるはずの成分が過剰摂取によって骨をきしませている。恐らく後少しで、バラバラに粉砕されてただの灰になるのだろう。 手料理の愛情が肉を肥えさせて、私の中に、毎日愛ー私の愛を底なしに欲しがる驕慢な女の愛ーが体中につもって息苦しくなり、やがて死んでしまうであろう。
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