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「デザートでございます」
ローストビーフの皿が下げられたテーブルに、梨のフルーツケーキが置かれた。山形がケーキにフォークを入れると、切られたでこぼこの断面から細切れになった梨が見え隠れしていた。
「うん。この味だ」
山形はそう頷いた。
「お気に召しましたか?」
「あぁ。ちょっと甘みが足りなくて、ちょっとふんわり感が足りない。でも、とっても優しい味だよ。こういうところが好きで、家内と結婚したんだ」
「素敵な奥様なんですね」
「あぁ……どこまでも素敵な家内だよ」
残っているケーキを見つめる山形。その瞳には一体何が映っているんだろうか?天野の頭にふとそんな疑問がよぎった。
「さ、早く食べよう」
山形は自分に言い聞かせるようにそうつぶやくと、最後の一切れを口に放り込んだ。
「ごちそうさま。本当に最高の食事だったよ」
穏やかにそう賛辞を送る山形に向かい、天野は深々と頭を下げる。そのとき、正面のドアが開いた。そこには天野と契約書を取り交わした山崎が立っていた。
「山形様。そろそろご出発の時刻です」
相変わらず慇懃な口調で山崎がそう告げる。山形は寂しそうな顔で頷くと、
「これが最善の選択なんですもんね」
と、自分に言い聞かせるようにつぶやき、席を立った。
「一体山形さんは、これからどうするんですか?」
山形の表情からただならぬものを感じ取った天野は、山崎にそう尋ねる。
「貴方は知らない方がいい」
山崎は厳かな声でそう告げ、首を横に振るが、
「いえ。私は知りたい。たった数件の依頼があるだけでこれだけの年俸が貰える仕組み、私は知らないといけないと思うんです」
まっすぐに山崎を見据え天野はそう言い切った。その視線を凝視した山崎は
「わかりました。後悔だけはしないでください」
とだけ告げ、天野を後部座席に乗せた。
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