最後のお客

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最後のお客

――おい! あそこなんだ?   人だかりが出来てるぞ。 ――どうも駅前の蕎麦屋で騒ぎがあった   みたいだな… ――うわっ…ひでぇありゃヤクザだな。   店の前で誰か殴られてるぞ。 ――あぁ…近寄らないでおこう。  ■ 「……あんまり客が来ないんで寝ちまったよ。 しかも嫌な夢を見ちまった… あんな事思い出したくもねぇのに」 無人駅の隣にある立ち食い蕎麦(そば)屋 『弁天(べんてん)』の店主:源太郎(げんたろう)はボヤキながら 椅子から立ち上がった。 昔はこの辺りに商店街が栄えており 下町の(にぎ)わいがあった。 夜になると仕事終わりの親父達が 酒を飲んだあとに よく蕎麦を食べに来たものだ。 腹を空かせた子供(ガキ)蕎麦(そば)と握り飯を タダで食わせて別れた女房に (しか)られた事もあったな。 その商店街も今ではすっかり シャッター街になっており この辺り一帯は今日みたいな休日の 夜でも人気(ひとけ)がない。 「これで終わりかよ…今日で店じまいだってのに 客一人来ねぇ…俺の人生なんなんだよ」 そう(つぶや)いた矢先(やさき)無人駅から一人男性が出てきて こちらに向かって歩いて来るのが見えた。 「クソ…あの野郎だ。 こんな日に限ってまた来やがって。」 (ほほ)に大きな傷があり 胸元が開けた清潔感のないスーツを来た 大柄な若い男性が蕎麦屋『弁天』の 暖簾(のれん)をめくって店に入って来た。 「(あきら)…おめぇみてぇな借金取りのヤクザが 最後の客になるなんてな… 店の資金繰りに悩んで闇金から 金借りた俺が馬鹿(ばか)だった。 今日で店閉めんだから返す金なんてねぇよ」
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