8人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
最後のお客
――おい! あそこなんだ?
人だかりが出来てるぞ。
――どうも駅前の蕎麦屋で騒ぎがあった
みたいだな…
――うわっ…ひでぇありゃヤクザだな。
店の前で誰か殴られてるぞ。
――あぁ…近寄らないでおこう。
■
「……あんまり客が来ないんで寝ちまったよ。
しかも嫌な夢を見ちまった…
あんな事思い出したくもねぇのに」
無人駅の隣にある立ち食い蕎麦屋
『弁天』の店主:源太郎はボヤキながら
椅子から立ち上がった。
昔はこの辺りに商店街が栄えており
下町の賑わいがあった。
夜になると仕事終わりの親父達が
酒を飲んだあとに
よく蕎麦を食べに来たものだ。
腹を空かせた子供に蕎麦と握り飯を
タダで食わせて別れた女房に
叱られた事もあったな。
その商店街も今ではすっかり
シャッター街になっており
この辺り一帯は今日みたいな休日の
夜でも人気がない。
「これで終わりかよ…今日で店じまいだってのに
客一人来ねぇ…俺の人生なんなんだよ」
そう呟いた矢先無人駅から一人男性が出てきて
こちらに向かって歩いて来るのが見えた。
「クソ…あの野郎だ。
こんな日に限ってまた来やがって。」
頬に大きな傷があり
胸元が開けた清潔感のないスーツを来た
大柄な若い男性が蕎麦屋『弁天』の
暖簾をめくって店に入って来た。
「彰…おめぇみてぇな借金取りのヤクザが
最後の客になるなんてな…
店の資金繰りに悩んで闇金から
金借りた俺が馬鹿だった。
今日で店閉めんだから返す金なんてねぇよ」
最初のコメントを投稿しよう!