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「駄目だ、俺も繋がらない」
突然の嵐に見舞われ、クルーザーが転覆、不幸中の幸いというべきか、私たち5人はこの島に漂着した。電波が繋がれば助けを呼べるかと思いきや、あらゆる機器の電波は通信不能となっていた。ここが無人島なのか有人島なのかも分からず、どこの国なのかも分からない。ただ一つ、しばらくはサバイバル生活を余儀なくされることだけは分かっていた。
「やったぞ、冷蔵庫は無事だ!」
クルーザーから顔を出してタケルが叫ぶ。
「マジか!?」
マサトが繋がらない携帯を投げ捨て、クルーザーに駆け出す。少しして、今度はマサトがクルーザーから顔を出して叫んだ。
「冷蔵庫だけじゃないぞ!キッチンは丸ごと無事だ!火もつくぞ!」
クルーザーの持ち主、ケンジとその彼女リサもクルーザーに駆け寄る。
「あの嵐の中、キッチンが無事なんて奇跡ね」
とリサが言う。クルーザーは浜に打ち上げられ、人力で海に戻すのはどう見ても不可能だ。しかし、冷蔵庫の中には幾分か食糧がある。少しは生き延びられそうだ。
「しかしこれだけの食糧だと、少しづつ食べてもせいぜい持って3日か4日ぐらいか。それまでに救助が来てくれればいいが…」
目を細めて水平線を見ながら、タケルが言った。見つめる先には島どころか船も見当たらない。
「とりあえずは、流木があるから焚火を起こそう。」
コンロから小さな枝に火を取り、組み上げた流木に火をつけ、野営することになった。男3人は焚火を囲んで寝ることにし、リサと私はクルーザーの中で寝ることになった。まだ理性的な生活をできるのは、少し食糧にゆとりがあるからだろうか。いつになったら家に帰れるのか、不安に思いながらも疲労に負けて眠りについた。
「おーい!なんか変なもん見つけたから来てくれー!」
漂流生活から3日目の朝、リサと一緒に散策に出かけたケンジの声が聞こえた。
タケル、マサト、私は、ケンジの案内する方にしばらく歩いた。そこで見たこともない不思議な生物を見つける。大型犬ほどの大きさで、哺乳類のようだが足が6本あり、エメラルドグリーンの毛並みのその生物は、瀕死状態で横たわっていた。
「なに、コレ?」
私が言うと、
「いやわかんねーんだわ。見つけた時にはもうこの状態だったんだ」
とケンジが答えた。
「コイツ、食えるのかな?」
マサトが不意に口走る。
「いやいやいや。こんな得体の知れないもん、食えるわけないじゃん」
タケルはまだ冷静だ。しかし、体育会系のマサトは、今でこそ食べる量を抑えているものの、普段は人一倍食べる量が多い。これからの飢えに恐れを抱いていたのかもしれない。
「このままほっといてもコイツ死ぬんじゃね?だったら焼いて食ってみようぜ」
「いやヤバいって!死にかけてんだから病原菌もってるかもしれないし、毒があるかもしれないじゃん!」
「わかったよ。じゃあ俺が最初に食うわ。んで、大丈夫だったらみんなで食えばいいんじゃね?」
そして、その不思議な生物を持ち帰り、焚き火で丸焼きにしてみた。空腹のせいもあるが、焼いてる時点で既に美味しそうな匂いがしていた。
さっそくマサトが捌いて一口食べる。その後の反応を、みんなで固唾を飲んで見守った。
「美味い!」
その反応に、またみんな生唾を飲んだ。
「こんなに美味いんだから大丈夫だって!」
「いや、私は食べないよ。美味いから大丈夫って、その理論でフグ食べて死んだ人がたくさんいるんだから」
とリサは食べるのを拒否した。しかしリサ以外は、不安ながらも食べた。空腹が正常な判断力を奪い始めていた。
それからまた数日が経った。あの不思議な生物を食べたおかげで、冷蔵庫の食糧はまだわずかに残っているが、もう間もなく底をつく事が目に見えていた。何か食べられるものは無いか、体力を消耗しすぎないよう、手分けして島を散策した。すると、また変な生物を見つける。今度は紫色の体毛に覆われていて、丸くて手足もない生き物だ。同じく瀕死で転がっているように見える。
「こんな見たことない生き物がいる島に救助なんて来てくれるんだろうか?」
言葉にしなくても、このサバイバル生活がもっと長くなる不安を、みんな共有していた。もう迷うことなく、「コイツを食おう」という意思決定が言葉もなく下された。しかし、相変わらず育ちの良いリサは食べようとはしなかった。
また数日が過ぎた。冷蔵庫の食糧は底をつき、空腹のリサが遂に病に倒れた。空腹に耐えかね、遂にみんなのタガが外れる。誰かが言った。
「コイツ、クエルンジャネ?」
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