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①-2
俺は凪が去ったのと反対の方向へ歩き出す。
凪は今からいろいろな猫たちにエサを与えた後で、彼女の祖母と叔母が住む家に立ち寄り、学校の荷物を置く。
そして30分のランニングをした後で、島の南に位置する海岸で一時間ほど泳ぐ。これが7月から9月までの、凪の日課だった。夏以外は、ランニングのみを一時間やっている。
それは彼女が小学六年生の頃からほとんど毎日続けていることらしかった。よくもまあ飽きずにやるものだ。
俺は下校するときに、毎日それを見守る。こんなルーティーンにはもう飽き飽きだが、八人だけいるクラスメイトのうちで帰路が同じ方向なのは凪だけなので、俺はこんな、ただの繰り返しでしかない日常を過ごさざるを得ないのだ。
「平和、か……」
俺はいつも考えている。この島から出たら、この退屈な日常も変わるはずだ、と。高校進学を機に、俺はこの繰り返しから抜け出すんだ。しかし、どうせ高校を卒業したところで、俺は島に戻ってこなくちゃいけないんだろう。といった諦めの気持ちも俺は持ち合わせていた。
だから俺はこうも思っていた。島から出られなくたっていい。せめてこの島の中で、俺の日常を変えるような事件が起こってくれればいい。
「何か、起こらねぇかな……」
日差しを受けて海沿いの道を歩きながら、俺はそう呟く。しかしそう一人でぼやくことすら、自分の日常のルーティーンと化していることに気づき、俺は舌打ちをする。
この時の俺は、まだ知らなかった。この翌日に島で起こる一つの殺人事件が、俺の生き方、そして将来を大きく変えることになる、ということを。
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