第四章 夏祭りで

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第四章 夏祭りで

       SE 電話の呼び出し音 奏 (留守電)『あ、もしもし。その…昨日は怒鳴って悪かった。今日、行く   よな? 祭り。仕事もうすぐ終わるから…待っててくれよ。』    SE 携帯を置く音    ME 遠くから 祭囃子の音    SE 電話の呼び出し音 しばらく鳴って途中で切れる    SE 電話の呼び出し音  奏 (留守電)『…もしもし。まだ、怒ってるのか? もうすぐ花火、始まる   ぞ。その…ちゃんと話させてほしい。このまままた会えなくなるなんて嫌   だ。だから、来てくれよ。あの公園で待ってる。お前が来るまで、一晩中   でも待ってるから。』    SE 携帯を置く音    SE 遠くから 花火の音(ラストシーンまで)    SE 携帯を手に取り 家を出る    SE 靴音 舗装された道をしばらく行き 砂利道へ 立ち止まる 奏 (上から)おう。ちょっと待って、すぐ降りるから。    SE ジャグルジムから降りる 奏 来てくれて…ありがとう。   ん? ああ、ジンクスなんだ。その…ジャングルジムに登って待ってる   と、お前に会えるんだ。高校の時もそうだった。だから、お前に会いたく   なったら、これに登るんだ。 奏 そうだよ、よく登った。あの頃は毎日のように登ってた。…それだけ、お   前に会いたかった。…意味、分かるか? 奏 ああ。俺は、お前が好きだ。 最初は反応が面白くてからかっていただけ   だったのに、段々、プリン食って笑ってるお前から、目が離せなくなっ   た。「可愛いな」って思ってることに気づいて、お前のこと好きなんだっ   て分かった。 いつも真面目に委員会の仕事してたことも、文化祭の準備   で居残って衣装を縫ってくれたことも、体育祭で一生懸命応援してくれた   ことも、全部知ってる。ずっと、お前のこと見てたから。 奏 本当は卒業式の日に告白したかったんだけど…。もしOKしてもらえても   遠距離になっちまうから、自信がなくて言えなかった。 お前と別れて、   最初はすげえ寂しかった。あんなに毎日会えてたのに、声を聞くことも出   来なくなって。   こっちに来てからも、時々ジャングルジムに登ってた。来るわけないって   分かってても止められなかった。 奏 でもあの日、お前に会えた。笑ったお前の顔見て、夢じゃないんだって実   感できた。   だから、今度こそちゃんと伝えたかったんだ。 奏 好きだ。俺と、付き合ってくれないか?    SE 頷く 奏 …いいのか? (安心したように)は…、そっか。ありがとう。 奏 その…昨日はガキみたいに拗ねて、悪かった。お前が俺の知らない男と仲   良くなるのかって思うと…。   でも、そんなのはお前の自由だ。仲良くなった方が仕事しやすいってのも   分かってる。束縛はしたくない。だけど…! 二人で飲みに行くのは…何   て言うか…心配だ…。 奏 …え? 奥さん? だってそいつ年下だろ? …へえ。学生の頃から付き   合ってた…そうなんだ…。   (小さく)何か負けた気がする…。   いや、何でもない。俺たちは俺たちだもんな。    SE 花火の音 多くなる 奏 お、クライマックスだな。見るか? ああ、ジャングルジム登れば少し見   えるよ。       SE ジャングルジムに登る 奏 よっと…。(手を伸ばして)ほら、来いよ。        SE 手を取り ジャングルジムに登る 奏 ここ座れるか? 気を付けろよ。   (視線、花火へ)おお、凄いな。今年は気合入ってる。ああ、去年はもっ   と少なかったんだけど。商店街の人たち、張り切ってたからな。 奏 ああ、綺麗だな。…なあ。(キスをする)ふっ…その顔、可愛い…。   これから、よろしくな。    終
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