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力の抜けそうな膝をどうにか支え、震える手で吊り革を握り直す。
どうして、この歳になって。
まず浮かんだのは、至極単純な疑問だった。
浅見くんは私と同い年。つまり、私と同じで4月になれば社会人3年目だ。しかも彼は大学卒業後は地元へ帰って、市役所に就職していたはず。真面目な彼が丸2年で転職をするなんて、意外だった。
その上、わざわざ上京してくるなんて。よっぽどやりたいことでもあるんだろうか。
呆然とスマホを見つめていると、母からのメッセージが画面に再び吹き出しを作る。
そこには、こう表示されていた。
『役者さんになるんですって』
「……はい?」
突拍子もない言葉に思わず疑問が口をつき、私は慌てて口を覆う。幸い、周囲の人に訝しげな目で見られるようなことにはならなかった。
そうしている間にも、母から届く吹き出しの数は増えてゆく。
『子供の頃から可愛いお顔してたものね』
『あさみちゃん、なんて呼ばれて』
『市役所でも、窓口のイケメン、って人気だったのよ』
知ってる。浅見くんがイケメンだなんてこと。
イケメンなだけじゃないってことだって、とっくの昔に知っている。
だって、あんなに見つめていたんだから。
私は『活躍してほしいね』とだけ返し、スマホを鞄の中へと仕舞った。
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