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雨のエレベータ、ピンク
東京地下鉄、紙屋町の紙屋町の出口を、地上に出て、新橋方面に走っていく。時には、タクシー。
御成門の我が社のビルに入る。
ここが、勤務先。毎朝、8時には、僕は、走っている。
ビルに入るなり、エレベーターホールにたどり着くと、4機あるエレベーターの上ボタンをすべて押す。横滑りに素早く。
あとは、エレベータが来るのを待つだけなのだが、イライラする。
2号機来ました。
扉が開く。
飛び乗る。
急いで、15階を押す。
閉まるを押す。押す。押す。連打する。
やはり、ここで、白い細めのしなやかな手が、閉まりだすドアの隙間に入って来た。ドアの閉まるのを妨害する。予想、予定通りの現象である。
開き直したドアから彼女は箱に入ってくる。少し恥ずかしそうに会釈をして。彼女は、11階で降りる。これが最近、何時もの朝の風景となった。
今日は、夏用のワンピースドレス。ピンクの薄さガ絶妙である。
僕は思わず、彼女より先に、11階のボタンを押してしまう。
彼女の降りる階、11である。
彼女は、またも、上目遣いで、僕をみて会釈した。
彼女のピンクは絶妙で、目に残像として、その日、何時間も残った。
次の日のために、僕は、外回りの仕事のついでに、青山のブルックB
スに行った。
コットンのサマージャケットに、コットンのチノパン。色はネイビー。
シャツは、白地にネイビーの縦じま。そして、ネクタイは、長めで、細すぎない、色は、彼女のドレスを意識して、今日の彼女のドレスの色より、少し濃いめのピンクにした。直ぐに着るわけではない。
しばらくしてから着てみようと思う。
翌日、東京は梅雨に入ったようだ。
小雨がこれから、一日中降ってやる、という勢いであった。
朝の出勤、8時である。やはり、僕が、エレベータロビーのエレベータの全機の壁の上ボタンを押す。今日は、1号機が来た。飛び乗る。閉まるを連打しながら、15を押す。ドアが、閉まりかける。女性の細い腕が入ってきて、ドアが閉まるのを止止める。再び開く。彼女が入ってくる。会釈する。何時もの光景。彼女は、11階のボタンを押した。
朝からの雨と、神谷町からの歩き事情で、彼女の今日のネイビーのドレスが濡れている。髪も少し、濡れたように見える。
僕は、昨日、ブルクBスで、ネクタイに合わせて買った、彼女の昨日のドレスよりも少し濃い色のハンカチがわりの薄めのフェイスタオルを彼女に渡した。
彼女は、
「ありがとう」
と素直に受け取ってくれた。
今日の僕は、先日買ったネイビーのコットンのジャケット、チノパンを着こみ、朝のダッシュに向かった。
今日も雨は、軽めに降っていた。僕は、別に雨が嫌いでもないので、かまわない。
何時ものように、ビルに入り、エレベータに乗る。一時停止でやはり彼女が乗り込んでくる。
初めての言葉を交わす。僕はそれにふさわしい、ファッションスタイルで臨んでいる。
彼女は、あの何時かの、ピンクのサマードレスであった。昨日、私が貸した、少しピンクのきついタオルを僕に差し出し、
「昨日はどうも・・・・・・」
といった。差し出した、タオルは、僕の胸のネクタイと同じ色。先日、彼女が来ていたドレスよりもピンクがきつい。今日の彼女のドレスも少しピンクが強くなっている。僕の貸した、フェイスタオルと同じ色である。僕のネクタイと同じ色である。ジャケットのネイビーによく合っている。
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