気まぐれな彼女

4/4
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 次の日から山田さんは僕の前にまったく姿を見せなくなった。以前の彼女のうっとうしいほどの付きまとい方から考えると何か企んでいるのでは? いや他人のクレジットカードを使って勝手に買い物をしたので後ろめたくて気配をけしているだけではないのか? たぶん後者であろうという結論に達した僕は、その日からあることに悩まされることになった。  道を歩いていると後ろから「ごめん……」という小さなつぶやき声が聞こえるようになり、振り返っても誰もいないという怪奇現象に悩まされるようになった。一度は振り返った時に人影が逃げていくのが見えたので追いかけていったが誰もいなかった、が地面には山田と書かれたメモがついた髪の毛が落ちていたので、さっきのは山田さんではないのか? いや山田さん以外の生き物ではないと僕は思うようになったが証拠を掴むことが出来なかった。  彼女から屋上で手紙をもらった3日後、親に居間に呼び出され「お前一体クレジットカードで何を買ったんだ」という親の声に、どうしてそれが分かったのだろう? クレジットカードの請求書がくるのは来月ではないのか? という僕に匿名の女性の通報者によって分かったと説明する僕の親。親には誰か分からなかったらしいが、僕の頭には山田さん、いや山田以外の人間がそんなことをするわけがないということが分かりきっていた。  その後、彼女から電話があり「お前も口の固い男よのう」と悪代官みたいな言い方をする彼女はきっとクレジットカードのことを言っているんだなと思った僕は、彼女に不快感を感じ、彼女を不愉快な存在と思い始めたので電話を切ろうかと思い始めた矢先に「あっ、ごめん。キャッチが入った」という彼女。仕方がないなと僕が待っていると「内角ストレート高めに来い!! それでこいつは三振だ」と彼女が大声で言う。えっ野球をしているの? それで山田さんはキャッチ―をやっているのか、何で!? それよりそんな大声で言ったらバッターに投げる場所がバレるんじゃないの? という僕の心配をよそに「ヘイ、ヘイ、バッタービビってる」と震え声で彼女が言うのを聞いた僕は、むしろ彼女の方がびびっているんじゃないのかと思う間もなく「もう、今日はこれで、お・し・ま・い💀」と恥じらいのある乙女のような声でガチャンと電話を切った彼女に僕は呆然としてしまった。  その日の夜、僕が部屋の窓から外を見ると、僕の部屋の窓に庭石をぶつけようとして――それは重さ30kgほどのを持ち上げようとしている所を僕に見つかった彼女が催眠術師のように――いや、トンボを捕まえる時のように指先をくるくる回して「こっちこい」と小声で言うのを見た僕は、まるで催眠術にかかったかのようにふらふらと彼女の所まで家から出て行ってしまった。  そんな僕に対して「だから言っただろ3日後に死ぬって!!」と僕を指差しながら大声で言う彼女に「近所迷惑だから」と注意する僕に「ごめん」と小声で謝る彼女が僕にプレゼントを渡した。  やけに小さいプレゼントだなと思い包装紙を破って取り出すと、やっぱり安物の100円ショップで買った猿の小さな置物、いらない、すぐに燃えないゴミの日に出して捨てられるであろうそれを僕に渡した彼女は「あなたにプレゼントをするためにカードを使っちゃったのゴメン」と言った。 「残りの金は?」という僕に対して「男が小さいことにぐだぐだこだわるんじゃない」と説教をしながら彼女が去ろうとする。しかし途中でお腹を押さえてうずくまる彼女を心配して僕が駆け寄ると「レストランで4日前に食べ過ぎたから、お腹が痛い」と言う彼女の言葉に、食べすぎ? もしかして僕のクレジットカードでレストランで食事をしたのか彼女は? というか、何で4日前に食べたのに今頃になってお腹が痛くなっているんだ彼女は? 天罰? それとも毒物でも食事に混ぜられたのか? という思案をしている僕に「あっ、あんたのせいでこうなったんだからね。ちゃんと責任とってよね」と顔を赤らめながら去る山田さんに対して、むしろクレジットカードを勝手に使われて親に怒られた僕の方が責任を取ってもらいたいよと思ったが、そんなことを言うと彼女がどんな責任のとり方をするか分からない――例えば切腹とかされたら困るから僕は彼女を黙って見送った。  彼女を呆然と見送った後、家の前で一人残された僕には彼女はやっぱり理解不能な気まぐれな人間――いや生き物かどうかも分からない気まぐれな彼女だった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!