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手に粉っぽいものが付いていて酸っぱい香りがする。私はその香りで目が覚めた。彼女の中に手を入れたときについた液体が乾いて粉になっていたのだ。この香りで目覚めるなんて今日はよい一日の始まりだと思った。
私が起きあがったとき、森閑とした場所にある部屋のなかは真っ暗闇であった。私は電気を手探りでつけると、木目でできた床に自分の茶色い長い髪がぱらぱら落ちているのを見た。
彼女は、最後にみたあの猫のポーズのままていたが、ライトのせいで、額にしわを寄せて
、ますます体を丸めて小さくなった。
「ねこ、起きて、ねこ!」
私は彼女のワンピースや二の腕を摘まんだりして遊んでいた。彼女はますます身を丸めて無視していたが、次第に手を伸ばして反撃してきた。顔を上げずに無鉄砲にのばすだけなので、私には当たらない。やがて頭を起こすと黒猫のような目が私を射た。
「ねえ、このあたりにね、温泉があるって。」
私は体育座りでワンピースの下から下着が見えるのも厭わずにいった。
彼女は無言だ。
「汗とかいろんなものでべとべとでしょう?歩いて行けるよ、五分くらい。」
彼女は無言だ。
「私が調べたからいくよ、さあ、いくよ。」
彼女は無言のまま立ち上がり、準備し始めた。私が鍵を持って、私たちは夜の迷宮に身を投じた。
懐中電灯をもって彼女を先導するのは私の役目である。
「夜の森って暗いね、ねえ、わたしのこと掴んで。」
彼女は黙って私のワンピースの裾を軽くつかんだ。そして、その手を高く持ち上げた。
彼女は寝ぼけた声で、無感動に
「下着見えるね」
といった。
私は振り返らずに彼女の手を取り払い、黙ってそぞろに歩き、温泉に到着した。
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