ねこのこい

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新しくても人はいないという田舎によくある利益率軽視の市政により作られた小綺麗な温泉施設だった。受付の老婆にやり投げな態度で木製の鍵を渡されて、下駄箱の鍵を回収された。 脱衣所は、清掃が行き届いていて木目調の床や茶色い籠、湯煙の熱気が旅人の私を安心させた。二人はワンピースと下着を脱ぐのに数十秒とかからなかった。二人でガラスの引き戸を空けるとお決まりのカラカラカラという音がした。 桧の香りに包まれて彼女の起きたての無造作な髪を洗うのは最高だった。彼女は黙ってからだを洗っている。石鹸をよく泡立てもせずに。 「ありがとね、君も自分で洗ったら?」 いつもより時間をかけて丹念にシャンプーを泡立てている最中にそんな言葉をかけられた。彼女は言うことをきく質ではないので、私は泡を落として、自分の体を洗い始めた。鏡にシャワーをかけると、自分の体が映し出される。真っ白で均整のとれた体、肌はつるつるしている。腰の位置は高くはなく、胸は小さくも大きくもない。ただ体のこの白さだけは彼女と同じくらいの彩度で、二人の体が重なり合うと、お互いの腕や足がどちらのものだかわからないくらい、同じ白さであった。だから私はこの体が好きだった。 長い髪の毛を洗いながら、今日の官能を思い出していた。彼女の体液なのか自分の体液なのかわからないものをお湯で流すと、少し寂しい気持ちになった。粘着のある液体が排水溝に流れていくのを暫し眺めた。そうしている間に彼女は温泉に使っていた。その横顔は目を閉じていた。寝ているようだ。
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