ねこのこい

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湯船の端っこで縁の石にあたりそうになりながら、彼女は首を上下にふってうとうとしていた。彼女の寝顔が私の世界との隔たりを感じさせる。それは寂しいことであった。遂に私は彼女と私を隔てるもの全てに嫉妬してしまうようになったのか。 私も湯船に入ると彼女の肩にそっと触れてみた。猫に触れるときは優しく触れるべきである。外的刺激に過敏だから。 彼女が目を見開いた、私と、目が合った。彼女が腕を伸ばしてきた、子供が抱いてほしいときにそうするように。私は彼女を母親みたいに抱きしめた、でも乳房に追いすがる私の方が子供のようだったかもしれない。 彼女の頭がぶつからないように頭を手で支えながら縁に押しつけるようにキスをした。彼女は、私の肩に腕を回して下からもっと深く激しく応えた。彼女は顔が小さくて体も小さい手足は折れるみたいに白くて細いけれど、的確に私の気持ちに応えてくれる、私も彼女を超えようとする。そうして私たちは知性の届かない高みに達していくのであった。 「私たち溶けちゃうんじゃない?」ひとしきり終わってから、私は満面の笑みで、彼女を腕の下から深く抱きしめた。彼女は疲労からか少し目を細めてぼーっとした表情だった。この顔を可愛いと思えていたら、私には心の余裕があったのかもしれない。 でも、私はこの無邪気さが私たちの心を阻む魔物のように思えたのである。
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