17人が本棚に入れています
本棚に追加
年明けになって退院した朱音は、金沢に引っ越していった。
そして、まもなく三学期が始まった。
僕は毎日、ゆるく長く続く坂道を降りて小学校に向かう。
いつも隣を歩いた朱音はもういない。寂しくないと言ったら嘘になるけれど、オンライン上のゲームの世界なら金沢と横浜だって簡単に繋がることはできるし、朱音が遠い空の下で幸せにしてくれてるんなら、それでいいかなと僕は思う。
三月のはじめ、僕が家に帰ると珍しく悠太兄が先に帰っていた。期末テストで学校が午前中で終わるのだと言う。
「オマエ宛にそれ届いてたぜ」
悠太兄が指差したリビングのテーブルには一通の白い手紙が置かれていた。
『榊 遼太様』
と表面に書かれていた。裏には朱音の名前と金沢の住所が書かれていた。
開けてみると、二枚の便箋が入っていた。僕と朱音だけがわかる暗号ではない日本語の内容で、楽しい日々のことが書かれていた。
最初のコメントを投稿しよう!