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 そんな朱音は、十二月に入ったあたりから学校を休みはじめた。担任の堂本先生が言うには、「ちょっとひどめの風邪をひいたらしい」ということだった。クラスメイトも「インフルかな?」と言う程度であまり気にもとめていなかった。  僕も「来週になれば登校してくるかな」という程度にしか思っていなかった。  まだ携帯電話を持っていない僕たちはお互いの事情が正確に把握できなかった。  登校班が同じで、家が近所の僕は、朱音へ毎日のように連絡袋(れんらくぶくろ)を運んだ。連絡帳に書いた時間割や学校からのお知らせ、手紙、宿題なんかを渡すためだ。  僕の家から少し坂を登ったところにある朱音の家は白い壁の二階建ての建物だった。昔から庭に赤いバラが咲く家で、僕は白い壁とバラを目印にして覚えていたくらいだった。  毎日、連絡袋を届けに行っても、ちょっと重めの茶色のドアを開けてくれるのは、いつも朱音のお母さんだった。 「いつもありがとうね。リョウくん」  朱音のお母さんは微笑む。朱音が大人になったらこんな風になるのかなというほどに、朱音と似ている。「残念ながら、私は拾われたコではないらしいわ」と朱音がふざけて僕に言ったことを思い出す。 「朱音、大丈夫ですか?」  僕が尋ねると、朱音のお母さんは少し空中を見て何かを考えているみたいだったが、 「そうね……、熱が下がったら来週ぐらいには行けるかしらね」  と言ってくれた。僕はその言葉に頷く。あと数日もすれば。また朱音と話せるのだと信じて、僕はゆるい坂を下りて帰った。  しかし、次の週になっても、朱音は登校してくることはなかった。
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