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母にはもう自分の身寄りはいない。
お父さんと結婚するときには、母の母や父、つまり母方の祖父母はもう亡くなっていたそうだ。
「新しい家族を作ろう」
お父さんに言われたとき、母はすごくうれしかったと話してくれたことがある。
わたしが生まれたことで、なにか夫婦のバランスがくずれたのだろうか。それとも父に新しい女ができたことが関係するのだろうか。どうしてなのかわからなかったけど、父の実家の母、つまりおばあちゃんも母をいじめ始めた。
近所のおばちゃんいわく、もともと気に入らない嫁だったらしく、最初からあたりは強かったらしいけど、お手伝いといわれるあの女が来てからはさらに意地悪になった。
それから……父は母を殴る、蹴るようになった。
母は耐えていた。
自分の、大事な家族だったから。
わたしに危害が及ぶことはなかったけれど、母がいなくなったら、あの女が堂々と家に居座るようになるだろう。あの女が来たら……当然わたしは邪魔だろう。
「あなたに何かあったらいやなの」
母が言う。
でも……わたしは母が逃げない理由にわたしを使うのが嫌だった。
たしかにあの女が家に来たら、わたしだって追い出されるに違いない。
母の言うことは正しいのだ。でも、わたしを理由にはしないでほしかった。もうわたしは大きいのだ。
「離婚したら?」
「離婚したら、咲ちゃんをとられてしまう。咲ちゃんに何かあったら困るから……」
そう言って、母は殴る蹴るされても、わたしが18歳になるまで我慢した。
「もう高校3年生だから。あと半年で卒業だから。お母さんは自分のことを考えて」
父がいないときに、わたしは何度も母に言った。
母にどれだけわたしの言葉が響いているのか全く見当がつかなかった。わたしはただ母の笑った顔が見たかった。
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