台風一過

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「母を救ってほしいの。母はわたしのためにここにいるの。でもわたしはもう18歳。あと半年で高校を卒業し、大学生になる。大学生になったら一人暮らしをすることになっているから。もう母はわたしのためにここにいなくても大丈夫なの」  わたしは一気に事情を説明した。 「おじさんは母の大事な人なのね。おじさんも母のことを思ってくれている……」  わたしはおじさんの顔を見た。  おじさんの顔は父と同じように皮膚がたるみ、しわができていていたが、わたしを、それから母をやさしく見た。 「うん、君のおかあさんは僕の大事な人だ」  おじさんはまっすぐわたしをみた。 「咲ちゃん、咲ちゃんもおじさんと来るかい?」  わたしは首を横に振った。 ――わたしの名前も知っていたんだ 「あと半年だし、もうすぐ入試だから」 「そっか。でもおじさんは咲ちゃんのことも心配だよ」 「父や祖母はわたしには甘いから。それにあの女は祖母の家にいるけど、わたしはあと半年ここに住むことになると思うし。大丈夫」  母は心配そうにわたしをみて首を横に振った。 「おいてけない……」  母はわたしを優しく抱きしめた。 「わたしはお母さんに生きていてほしいの。あいつらの奴隷みたいに殴られているのを見るのはいや。だからお願いだから、生きて。ここから逃げて」  母はわたしの決心が強いことを知ると、仕方なくうなずいた。 「わたし、ちょっと祖母の家の様子をみてきますね」  おじさんは「うん」とうなずいた。  その間に……逃げて……  おじさんと母に目で訴えると、ふたりは「うん」とうなずいた。  母はわたしに「気をつけて。落ち着いたら連絡するから」と耳打ちした。 「うん、バレないようにね」  わたしは笑った。  母は泣き笑いした。 「いってきます」  わたしは傘を差し、祖母の家へ向かった。祖母の家は徒歩10分ほどのところにある。川の向こうの、町の方だ。  おじさんと母はおそらく反対側を目指してにげるだろう。  母が幸せになってくれればいい。わたしはもう一人でも生きていける。    わたしは祖母の家で一晩過ごすことにした。  あの女は鬼のような形相だったけれど、おばあちゃんはわたしを歓迎してくれた。 ***
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