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1 口の形、黄色の雨合羽、糞土猪
廃墟のビル、隣り合わせた部屋の窓枠のそれぞれに男と女が分かれていて、向かって左に男、右に女、隔てられたまま話をする。
「口の形が変わってるよ?」
「ジーッ、元の方が良かった?」
「いや、こっちの方がいいよ」
そう男が返すと、一筆描きの女の肖像が浮かぶ。
内田春菊風のタッチで頬杖ついて、口をイーッてしている。
「あのときは訳もわからずにいて、すまなかったね」
二人のとき、とても淡い微かな瞬き、静かな二人だけのとき
青、とても穏やかな辺りの雰囲気、
そこにボワンとした光の灯る、蛍のイメージ
そのひとときを切り裂くように、壁をつたう木の枝が銃弾ではじかれる、
それに合わせて芋虫がビシビシ散る、殺虫。
遠くで戦場の音がする
世界が終わっているような、人気のなさ
エメラルドグリーンの明るさのなか
それでも僕たちは生きている
もう元に戻ることはないかもしれない
何で生きているんだろうとか、そんなことを色々考えて
現状は良くない、殺伐としている。
本当に好きな娘ではないがいつもそばにいる
主張せずただそばにいる女と、それを、その有難みを解っていく男。
はげましてくれている。感謝せずにはいられない。
……
夜の校舎から黄色の雨ガッパを着た人が一人出てくる。
柵をまたいで去っていく。
次から次へと校舎から出てくる。
男は黄色が出てくる校舎の中ほどに忍び込む。
地下に行くと、後から一人下りてくる。
後ろめたさがあって何かをしている風を装いつつ見る。
女の子でそばかすがある。
幼さが目に残っている。
向こうの方もおどおどしていて声をかけてこない。
その後、雨ガッパが下りてきて三人ほどになる。
「君ら何部なの?」
「えっ?」
動揺している。
……
道路。両脇にはビル、商店、下町風の低い軒が建ち並ぶ。
舗装されていないようでもあり、整備されているようでもある。
自転車でスミと走っていると、道いっぱいに左右交互に糞土色した身の丈超の猪が寝そべっている。
止まっているが通り抜けようとすれば、動いてぶつかることは避けられない気配がする。
通ると、鼓動はしたが抜けられた。
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