ユメの世界

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 ぼくには、もうひとつの仕事がある。というか、これは仕事ではなく、ほとんど趣味なのだが、ルー先生のところに通うことだ。  ルー先生はこの地下都市で絵を描いている、画家の先生だ。  ユメはよく、先生のところにやってきて、次の絵を描いてくるように頼む。まあ、実際に現れるのは、あのカゲのやつらだが。  先生はユメたちに、たくさんの絵を描いてやっている。風景画から、人物画、まるで想像の中にしかないようなもの、そしてユメの姿もだ。あくまで、想像だけれども。  ぼくの役割は、ルー先生が、きちんと絵を描いているかの監視すること。  けれど、ルー先生はいつも絵を描いているわけではない。1日から数日の間、下手をしたら、もっと長い間、先生は何もしない。  ただ、真っ白なキャンバスに向かって、ぼーっと、座っているだけだ。その様子をぼくはただ、静かに見守っている。  やがて、何かを思いつくと、ルー先生は一気に絵を描き上げる。  書き上げるまでの間は、何も飲まず、何も食わずで、ただ一心不乱に絵を描いている。  そうしてできあがったころを見計らって、カゲたちはルー先生の家にやってきて、その絵を回収していく、そして、心ばかりの物資をルー先生の家に置いていく。  ぼくがルー先生の家にかよっているのは、この物資が目当てでもある。  ルー先生は、ユメの大のお気に入りなので、いつも、すこしだけいい物資が配給されている。しかし、ルー先生は、それには目もくれない。いつも最低限の量しか食べないため、ルー先生の部屋には大量の物資があふれかえっている。それを処理してあげるのも、ぼくの重要な仕事なのだ。  それに、ルー先生は足が悪いので、その手助けもぼくはしている。左の足に大きな傷があり、その傷のせいで、左足を動かすのが難しく、歩き回るのも、困難だった。  どうしてそんな怪我をしたのかを、ぼくは知らない。  ルー先生と出会ったのは、いつのことだっただろうか、そのことに関して、ぼくは全くと言っていいほど覚えていない。  ただ、ぼくがルー先生の家に通うようになったのは、もうだいぶ昔からのことで、だからぼくはあまりそういうことを、気にしないくなったのだ。  ぼくとルー先生は、むかしからの馴染みで、ぼくは、ルー先生を監視し、時には手助けするためにルー先生の家へ行く。  その報酬として、ルー先生の物資を少しだけ頂戴する。  ぼくは今日もルー先生の家に行く。
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