ユメの世界

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 先程から物資物資とたくさんつぶやいていて、ぼくは物資が目当てでルー先生の所に通っているように思われるかもしれない。  でもやっぱりぼくは、ルー先生の描く絵好きだった。  ルー先生は地上にいたことがあるらしく、ぼくが見たことのない、様々な景色を見せてくれる。  今は、何を描いているのだろう。茶色と赤色。初めて言われた組み合わせだ。いつもは水色や緑色、そういった色を指定してくる。  そういうときに描くのは、たいてい風景の絵だ。ぼくはルー先生の描く風景画が、とても好きだった。  森や川、草原、青い空、小鳥たちが歌っている、そんな景色。ぼくは、地上に行けば見られるであろう、その景色を、実際に見たことはないけれど、けれど、ルー先生の絵を見ていると、その景色が実際に目の前にあふれてくるような、そんな気がするのだ。  ルー先生は静かに、だけど、一心不乱に絵を描き続けている。今度はぼくが、その様子をじっと、見つめている。  どれだけの時間がたっただろう。それでもルー先生の作業は終わらない。時間的にはもう、夜中くらいだろうか。  この地下都市には夜がない。基本的に、いつも煌々と光がたかれ、暗くなることはないのだ。だから地上でいう、昼とか、夜とか、そういう概念は存在しない。人々は寝たい時に寝て、起きたいときに起きる。その繰り返しだ。  ぼくもいつの間にか眠ってしまっていたようだった。ルー先生の後ろで、時計を見ると、気が付くと時間が過ぎていた。それでもルー先生は変わらず絵を描き続けている。  ぼくはうんと背伸びをする。そして狭い部屋に少しだけある空気をたくさん吸い込む。  物音を立てるとルー先生はひどく怒るので、ぼくは静かにルー先生の絵を覗き込んだ。  茶色と、赤色。どこかの暗い室内と、床に転がっている何か。机と、玄関だろうか。部屋の奥から、玄関に向かっての景色を描いているの。玄関のところ、そこに誰か人がたっている、一体、誰だろうか?  そして、この景色を見ているのは誰だろうか?  もっと見たい気持ちがあったが、ぼくはもうひとつの仕事である、ゲート管理に向かわなければならなかったので、音をたてないように静かに、絵の具の水だけを交換し、ルー先生の家を出た。  ゲートへ向かう道の途中で、あの絵のことがふと思い出された。  どこか懐かしい。そんな景色だった。  ゲートの方へ向かうと、なにやら騒ぎになっていた。
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