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ぼくはあわてて、西側の列車のほうへ走っていく。人々は、頭をさげ、そして膝をつき、地面に頭をこすりつけてしまっている者もいる。
ぼくはそんな人たちには目もくれず、一心に列車へと向かっていく。そして、
「やっぱり」
昨日まで新品同様に美しかった列車は、もう何十年も使われていないような、ボロボロななにかへと姿を変えていた。
ぼくは、思い出していく。ゆっくりと。この地下都市のことを。
この地下都市は、地上に住めなくなった者達が作った都市だった。
地上は、大規模な気候変動が起こり、寒冷地帯と熱帯地帯とが、よりはっきりと区別されるようになっていき、そして、その寒さ、暑さ共に、人間の限界を迎えつつあった。
だからぼくたちはやむなく、この地下都市を作り、そこに移住したのだった。
けれど、食べ物が、水が、生きていくためのあらゆる物資がない。
地下都市でも生産できる食べ物の研究は、まだ進んではいなかった。だから、ぼくたちがとった行動は、この西側の列車を使い、地上へと行き、地上から、物資を調達してくることであった。
ぼくは、そんな物資調達員のひとりだった。
地下都市の人口はどんどんと増えていった。それだけの人たちを養うための物資を、ぼくたちは手に入れなければならなかった。
列車は毎日運行され、ぼくたちは、地上からありとあらゆる物資を調達していった。たとえ、地上の人々の生活を奪ってでも。
ぼくたちは、地上の人々を脅し、時には殺し、そして、そこから物資を調達した。
しかし、地上の環境は、どんどんと悪くなっていった。遂にはその地上にも、物資は少なくなっていき、ぼくたちの生活はどんどんと、困窮していった。地上に行っても、奪うものがなくなっていたのだ。
ぼくたちは絶望した。もう、生き残るすべはないのかと。
そこに現れたのが、ユメだった。
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