からあげ海産

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からあげ海産

総理がホテルニューオータニでからあげの会を開いたことが政治資金規正法違反にあたり野党の追求を逃れきれず解散に至った。メディアは「からあげ解散」と大々的に報じた。どうでもいいことばかりとりあげられるから政治に興味を失った。嘘、始めから興味ない。 車の中で寝ていたらラジオで「しあわせなら手をたたこう」が流れてきた。手だけじゃなくて足鳴らして肩叩いてほっぺ叩いた。ほっぺ叩くのはヤバくない?とか思ってしまう自分の洗脳具合に嫌気が差した。指を鳴らすとラジオは消えた。嘘、エンジン切った。 窓がノックされ目がさめた。少年が覗いていたのでエンジンかけてパワーウインドウを開いた。 「子供心を売りに来ました」 僕は10万円で買った。少年はつまらなさそうに去っていった。それからまた少し眠ると、スマホの着信音で起こされた。 「はいこちらからあげ海産」 「子供心って売っていますか?」 「ああ、ラッキーだね。今新鮮なのがあるよ」 「ください」 僕は子供心を中年に1億円で売った。9990万円の儲けが出た。税金を納めていないから全部僕のものだった。その日のうちに使ってしまえば、収支はゼロなんだから。 けれど、僕のものってなんだろう?からあげ解散の日からこの商売を始め、僕は何を得ただろう?みんなは僕に何を売り、何を買っていったのだろう。みんな、はじめから持っているものばかり、失って、得て、また失って、そうやって循環し続けることが、生きるということ、なのか。 そして、僕らは、何になるのだろう。まっさらな赤ん坊と、死にかけの老人を並べ、僕は考えた。何も得ていない者と、全てを失おうとしている者。二人の寝顔は、とても良く似ていた。生きるとは、結局、なんだったのだろう? 過去も未来もなくて、現在だけが、ある。そんな気がして、どこかで現在を仕入れてこようと思ったけど、なかなか手が出る値段じゃなかった。つまり、みんなそんなこと、知っていたってこと。僕だけが、知らなかった。 それからしばらくして、からあげ海産は閉めてしまった。わりのいい仕事だったけど、僕の人生を買い戻せるほどではないと気がついたので。だから、僕は新しく、僕の人生を、自分の手で、作り上げることにした。とりあえず手を叩いて、幸せがよってこないかあたりを見回した。静かなので、僕は手を叩きながら、歩いていくことにした。
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