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06 本題
カルミラの民。
彼らは、悠久を生きる人外の生物である。
姿かたちは人間と酷似しているが、その生命活動は根本から異なっている。
美しい姿と面妖なる力で人間を惑わし、その生き血を啜る。それをしなければいずれ衰弱し果てるゆえに、吸血とは本能的な欲求だ。
伝承では吸血鬼と称され、地域によっては悪魔と混同されることもあるが、彼らはそれらの呼び名を好まない。
民間に語られるそれらの存在と似通っている部分もあるが、多くの部分で異なっているからだ。
例えば、棺で眠ったりはしないし、疫病をまき散らしたりもしない。鏡にだって映るし、招かれざるとも侵入を果たすことはできる。
また、血を吸われた人間は彼らの同族へと転じると言われているが、それも厳密には異なる。
彼らは、特に気に入った人間に対して長時間かつ大量の吸血を行い、同時に自らの『力』の一部を分け与える。
すると、その者の身体は人間としての摂理から完全に離脱する。己の血を啜った者を『あるじ』と認識し、その従属下に入る。
主人を唯一絶対の存在とし、共に長い時間を生きる、いわば亜種の民となるのだ。
決してカルミラの民と同種になるわけではない。
『亜種』は、主人を世話し、その無聊を慰める『従者』となる。もちろん、『常備食糧』としての役割も果たす。
カルミラの民が人間の血を糧とする一方で、彼らの血液は人間にとっては猛毒である。
だがもし、カルミラの民の血を受け入れることができたならば――。
その人間はカルミラの民の血を食餌とする『超越者』になるという。
***
「道端で死にかけていたところに、戯れで血を与えてみたら蘇ったのよ。そのまま人界に放置しておくのも無責任だし、連れ帰って従者として使っているだけ」
ラスティについて、ヴィオレットはそんな風に説明をしてみせた。
拾われた捨て犬のような物言いをされた当の本人は他人事のようにつぶやく。
「俺って意外と運が良かったんだなぁ」
のほほんとした男の言葉に、ヴィオレットもシェリルも微笑みを浮かべた。
超越者の男を中心とした柔らかい空気は、エドマンドにはとても侵犯できそうになく、ひどい疎外感を覚えた。
この雰囲気は一体なんだというのだろう。嫉視せずにいられない。
「その男のことがわかったところで、本題に入らせてもらおうかっ」
妬みの情を隠すため、エドマンドは強い口調で話題を変えた。それからわざとらしく咳払いする。
「ぼくは最近セントグルゼンの街を遊び場にしているんだけど、そこでここ二ヶ月ほどの間に、貴族の少女ばかり五人も死んでいる」
あまりに剣呑な話題だからだろう、場の視線が瞬時にエドマンドへ集中した。少し満足するが、そんな低俗な優越感に浸っている場合ではない。
「それだけなら、どこかの狂人の連続殺人で済むだろう。けれど、すべての死体には共通してある特徴があった」
エドマンドは目を伏せる。
「全身に吸血跡。もちろん死因は失血死だ」
「ふぅん」
ヴィオレットはつまらなさそうに相槌を打った。だがその黒瞳に鋭いものが宿る。
彼女が話に乗ってきたことに安堵しつつ、エドマンドは続けた。
「少女たちは社交の場から唐突に消え、そして次の日、変わり果てた姿で発見されている。ひと気のない路地裏なんかに捨てられているそうだ」
「あら、無粋だこと」
女の声がひどく冷たいのは、エドマンドの話に興味がないからではない。『食事』の際、その相手を死に至らしめた挙句、ゴミのように捨てる同胞への蔑みからだった。
カルミラの民にとっても『殺人』は忌むべき行為である。特に人間に対する殺傷は、同族に対するものよりも強い侮蔑対象となる。ましてや食事の果てに失血死させるなど、強姦殺人に等しい。
「その阿呆と私に、なんの関係があるというんだ? そんな話を聞くのも不愉快だな」
わずかに眉間にしわを寄せるヴィオレット。エドマンドも険しい顔で続きを語る。
「……被害者の周囲の者たちが、一様に目撃しているんだ。長髪をなびかせた、男とも女ともつかない、美しい若者の姿を」
ヴィオレットの柳眉がつり上がる。黙って聞いていたシェリルすら、身を乗り出して強い関心を見せていた。
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