殺人犯の名は悪夢

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殺人犯の名は悪夢

 こんな夢を見た。俺が人を殺してしまう夢だ。それも全く見たこともない男を殺してしまうのだ。ナイフで一刺し。目覚めた今でも、あの苦悶に充ちた表情が鮮明に頭の中で残像となっている。  覚えているのはそれだけで、どこでどうして俺が人を殺めたのかは記憶に残っていない。俺は人を恨んだことがない。だから人なんて殺すわけないのに。  そもそもこんな夢だってみるのもおかしい。そうだ、きっと俺は疲れているのだ。ここ続けて仕事に追われているせいだ。今日は折角の休みだから羽を伸ばそう。  ピンポーン。アパートの部屋のチャイムが鳴った。一人暮らしなので俺が出ないわけには行かない。俺は洗い物を途中でやめて玄関の方へと足を運んだ。  玄関扉を開けると、配達業者が荷物を持って立っていた。 「お届けものです」 「あ、はいはい……ってえ?」 「え?」  嘘だろ。そんな馬鹿な。有り得ない。  今俺の目の前に立っている配達業者、まさにさっき夢に出てきたあの男なのだ。俺が殺してしまった男。頭の中で再びあの表情が蘇ってきた。  動揺していると、俺は異変に気づいた。配達業者の男が体を震わせているのだ。いったいどういうことなのだ。 「やっぱりそうだ……お前、俺を殺す気なんだろ!?」 「え、は、は?」 「夢に出てきたんだよ。全く知らない男が俺をナイフで刺し殺すんだ。その男がお前なんだよ」  男は声を震わせながら言う。 「し、知りませんよ、そんな。しかも夢でしょ?」  内心、俺は驚いていた。この男は俺の逆の夢を見ていたんだ。こんなことって有り得るのか。 「最近、変な正夢が続くんだ。だから今日もそんな気がして……しっかり対策を練って来た」  配達業者の男が荷物を落とすと、後ろポケットからナイフを取り出した。 「死んでくれぇぇぇ!!!」  男がナイフを突き出してくる。俺は咄嗟に横に避けた。 「ちょ、やめてください! てか、そんな気がしたなら仕事休めばよかったのに」 「うるさい! だまれぇぇぇ!!!」  再び男がナイフを突き出してきたので、俺はその腕を自分の腹部の直前で掴んだ。力と力の粘りあいで、俺が少しでも気を緩むとグサリと刃が皮膚に入り込んでしまう。俺は全身に力を込め、男を押し倒した。  だが、思ったより力が入りすぎて体勢が崩れ、俺が男の上に覆いかぶさるように倒れてしまう。 「うっ……!」  男の低い唸り声がした。俺はまさかと思い起き上がると、夢に見た光景が今目の前で現実となっていた。男は最初苦しそうに身じろいでいたが、すぐに動かなくなってしまった。  ああ……  お互い、正夢になってしまったな……
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