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何が起こっているのか頭で理解するのに時間がかかった。これ、先生の十年前の?
「やっぱり要らないよな」
「いっ、要ります!下さい!」
先生の言葉にかぶせるように慌てて返事をしたら、そっとネクタイを手渡してくれた。自分のネクタイとは違う少し幅広のそれを手に、涙が止まらなかった。
「おいっ、早くしまえよ。」
小声でそう言われ慌ててネクタイをポケットに突っ込んだ。ポケットの中の右手が熱い。
「これで、アレだ、学校からも俺からも卒業な?」
このネクタイは、差し詰め先生からの卒業証書ということらしい。
「はい。」
一言返事をするのがやっとだった。かなわない恋をしてしまった私に、精一杯の優しさをくれた先生。その優しさに背中を押され、私はあの日出会ってしまった恋にようやくサヨナラを言えた。
―end―
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