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桜ヶ丘と名前がつくだけあって、昔から桜の多い所なのか、校内には沢山の桜があった。中でも校舎横の桜は、学校と同じく歴史があるのか、かなり大きな木で、入学式に満開になっていれば綺麗だろうと楽しみにしていた。
その年の桜は、少しせっかちだったようで、その日は既にかなり散っていて、地面は薄いピンクの絨毯で覆われていた。
――桜って散り際も綺麗なんだよね。
そう思いながら桜の木の下にいたら、一陣の風が吹いた。自分の周りでブワァっと花びらが舞いシャワーのように降りそそいだ。
「おっ、今年は入学式まで持たなかったかー。でも散り際もいいもんだな。」
急にすぐ近くで声がしてビクンと体が跳ねた。
一人きりだと思っていたのに、いつの間にかすぐ後ろに男性がいた。その声は私へ向けたものだったのか、独り言だったのか判断がつかず、返事をするタイミングをのがしてしまった。
「すごいぞ、頭。」
そう言って私の方に近づいてくるのは、垂れ目がちな優しい笑顔がやけに印象的な男性だった。歳は二十代半ば位で、背が高く細身のダークスーツがとても似合っていた。
返事出来ずにいたら、頭のてっぺんを指さされた。自分で軽く触ると花びらが数枚ハラハラと舞い落ちた。
「まだ残ってる。ちょっといいか?」
そう言って至近距離で手を伸ばされて、何故だか胸が痛いに程打っていた。そっと頭に触れる感触の後、つまんだ花びらを見せられた。
「ほら。」
花びらよりも、その男性の笑顔から目が離せなかった。短く無造作な髪の上に花びらを乗せた、その男性の満開の笑顔にまた一つ胸の奥で大きな音がした。
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