4章 ティッチィの寝床

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 寝床に適した枝葉とティッチィを抱えて、ポルテは家に戻った。葉は一枚がポルテの手のひらほどの大きさがあるもので、裏も表も他の葉に比べて淡い緑色をした、柔らかい質感のものだ。ポルテは家の入り口から見て右手側に、ティッチィの寝床を作った。採ってきた枝葉の一枚一枚に、虫がいないかを確かめ、枝から千切り、手で破れない程度に揉んだ。これをするとしないとでは寝心地がまるで違うのだ。柔らかくした葉を地道に積み重ねて寝具を作り上げた。途中からはティッチィも手伝った。ティッチィのめくった葉の裏に、細長い胴体をした足の速い毒虫がくっついていた。それを見た途端、ティッチィは飛び上がって絶叫した。ポルテは木の棒を振りかざして毒虫を追いかけ回し、棒の先端で毒虫の胴体を三つにしたところで家の中は平穏を取り戻した。  しんなりとした葉が積み上げられ、それが小山のようになるにつれて、ティッチィは次第にそわそわと体を揺らし始めた。同時に製作途中の寝具に視線を向ける回数も増えていった。ポルテが採ってきた枝から、身に纏っていた全ての葉が失われた頃、座り通しだったポルテが背中を伸ばすよりもさらに先に、ティッチィが葉っぱの寝具に飛び込んだ。数枚の葉が、少女を歓迎して舞い上がる。 「ああっ! なんてことなの! 葉っぱがとても優しいわ。こんなに気持ちの良い寝床は初めてよ! ポルテ、あなたって本当にたくさんのことを知っているのね。こんなこと、バーゼル達はちっとも教えてくれなかったわ」  ティッチィは、体を寝具に押し付けるように身動ぎして言った。 「そう大きな声を出すな。ちょっと工夫しただけだろう」 「ごめんなさい。でもわたし、今とっても感動しているのよ? どれくらい感動しているか、きっとあなたには分からないでしょう? まるで生まれ変わったかのよう。わたし、昨日の夜からずっとそうなの。大人達の蔦から逃げ出すって決めたときからよ。こんなに幸せでいいのかしら。雨雲がわたしのことを避けているようだわ。後からたくさんの雨が、いっぺんに降ってきたりしない?」 「家にいれば大丈夫だろう」とポルテは言った。口にして、ポルテは、自分は何を言っているのだろうかと眉間にしわを寄せた。そこを押してみると、じんわりとした気持ちの良さが顔中に広がった。
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