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1話 : 冒険者様、目の前で死亡。
ーーーム。ーッサム。
どこからか、僕を呼ぶ声がする。どこか懐かしいような…でも、初めて聞く声がする。
…アッサム。
ハッキリと呼ばれた名前に反応し、ハッと我に返った。辺りに声の主は居らず、何事もないかのように過ごしている村人がいる。僕も、ここに立っているのが当たり前のように立っていた。いや、それが当たり前だと思っている。
??「おぉ、ここがガーネットの村か」
突然、村の入り口に人が現れた。変に思うかもしれないが、この表現が正しい。実際に誰もいなかったところに現れたのだから。だが、それを目にした村人は誰も驚くことはなかった。ここでは当たり前なのだ。
だってここは 『はじまりの村 ガーネット』 なのだから。
村人1「おや、見ない顔だね。その格好は冒険者かな? 情報なら村の酒場へ行くといいよ」
村人2「こりゃ珍しい、冒険者さんじゃないかい。記念にこれあげるわ」
現れた冒険者は次々と村人へ話しかける。話しかけられた村人も変わらない口調で、表情で、言葉で受け答えをしている。それが当たり前だと言うように。
冒険者「何か貰ったな……宝石? 売れるのか、これ。まぁ、いい。それより酒場はどこだ?」
一部始終を見ていた僕は、入り口で冒険者を待つ。この場所は隠れて眺めるには丁度良い場所だな。
冒険者「ここか?」
冒険者は酒場へと足を踏み入れた。
アッサム「いらっしゃいませ! 僕の親父、ダニエルの酒場へようこそ! 冒険者さんかな? どうぞ! 店にいる常連さんは、いろんな情報を持ってるよ」
僕は頭に浮かんだ言葉を口にする。まるで、言う言葉が既に決まっていたようだった。
冒険者「……まずはダニエルにでも話しかけるか」
そう呟いた冒険者は、奥のカウンターへと向かう。
ダニエル「おぉ、俺の酒場によく来たな。ここに来れば、情報は客から手に入るぞ」
冒険者「なんだ、これだけか。では、客に話しかけるかな」
冒険者はそう言うと店にいた客に話しかけ出す。店には三人の常連と、二人の新顔がいた。
常連1「お? お前さん冒険者か? 外でウロウロしてる奴には話しかけた方がお得だぜ。たまに貰える宝石は この国じゃ安いが、他の国では高く売れたりするからな。ま、人と関わりを持って悪いことはねぇぜ」
常連2「お前、冒険者だろ? こんな所でのんびりしててもいいのか? 早くしないと他の奴が魔王を退治しちまうかも……ま、そのためには各村や町、国の宝とやらを集めなきゃいけないんだがよ」
常連3「あら、かっこいいわね。冒険者さんかしら? ここにいるってことは情報集めかしら。ふふ、私からも情報を提供してあげる。…ただし、交換条件として白い花のエキスを採ってきてくれないかしら。あのエキスは美容にいいの。お願いね。採ってきたら、私に話しかけて頂戴」
新顔1「……なんだ、冒険者か。オイラは旅をしている者なんだが、ある噂を嗅ぎつけてこの村に来たんだ。だが、村長が見つかんねぇ。村長さえ見つけられれば、宝はオイラの物だってのに」
新顔2「僕は、この国のことよく知らない………けど、村長が見つからない……のは、変…だと思う。村長がいない…のに、村人は、いつもと変わらない……もしかして、何か知ってる…?」
冒険者「……村長がいない? ……取り敢えず、白い花のエキスを採ってくるか。どこにあるんだろうか?」
そう言うと、冒険者はもう一度 常連Cへと話しかけた。
常連3「あら、早かったわね……って、何? まだ採ってきてないの? ……あらやだ、場所を言ってなかったわね。ごめんなさい。この村の裏手にある山の一番上にあるわ。お願いね」
冒険者「裏山か……まぁ、取りあえず行ってみるか。でないとイベントが発生しないようだしな」
そう言って裏山へと向かった冒険者の後を、僕はこっそりとついていった。だって、動けたから。自分の意思で動けたから。
そんなことを考えていると、冒険者の叫び声が聞こえてきた。
冒険者「うわぁぁぁああああああ!!!!」
隠れていた草むらから顔を覗かせると、冒険者は殺られたところだった。
??「ヴゥ〜〜」
アッサム「…ウル?」
僕の声に反応し、冒険者を殺ったそいつは僕に飛びかかってきた。
ウル「クゥ〜〜ン!!」
こいつは狼のウル。ウルはこの森に住んでいて、村の人達を守ってくれている。
何故だか僕の記憶に当たり前のようにあるウルのこと。ウルとどうやって会ったのか。そして、どうしてウルが冒険者を襲うのかは分からない。ただ分かるのは、冒険者がここを通るとウルに襲われること。そしてそれを当たり前だと思っていること、それだけだ。
僕は足元に落ちているものに目をやる。そこには冒険者の身につけていた鎧、持っていたアイテム、武器などがあった。だが、そこに冒険者の姿はない。たぶん、今頃は村の入り口にでも寝転んでいるだろう。ウルという敵に殺され、身体だけが転生したのだ。
これは冒険者だけの特権。僕みたいな普通の人なら、殺されれば死んで泡となって消えてしまう。
そんな僕の頭に一つの考えが浮かんだ。
…これを身につけたら、僕も勇者みたいになれるかな?
ちょっとした好奇心だった。鎧をつけ、アイテムを持っていた袋にしまい、武器を持つ。その間、ウルは僕を見つめていた。
ウル「…クゥン?」
ウルはそんな光景を見飽きたのか森の中に目をやった。そこには道どなく、木が並んで立っているだけ。俺もウルの見ている方へと目をやった。
アッサム「……そっちに、何かあるの?」
ウル「ワォ!」
ウルは「分かってくれた!」とでも言いたそうに尻尾を振っている。適当に放った言葉に、ここまで反応されるとは思っていなかった。まぁ、何かあるのなら気になる。ウルが先導してくれるようなので、あとを着いて行くことにした。
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