2話 : ただの村人ですが?

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2話 : ただの村人ですが?

五分くらい歩いただろうか? 少し開けたところに出た。そこには、小さな石の祠があった。 僕「祠……?」 ウルが祠まで歩き、前に座り込んだ。僕も祠に歩み寄る。ふと、祠の後ろから赤い布がはみ出ているのに気がついた。 気になり、祠の後ろを覗き込む。そこには赤い頭巾を被った女の子が座っていた。 僕「おぉ!? あ、ご、ごめんなさい! てっきり、祠に布が挟まってるのかと……」 僕は特に悪いことをしたわけでもないはずなのに、何故か申し訳なくなり勝手に言い訳を始める。そして一歩ずつ後ろへと後退した。 ??「お? アッサムじゃないか。大きくなったなぁ。ん? その格好は…お前、勇者だったのか?」 後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、弾かれたように振り返る。 アッサム「村長!? なんでここに??」 村長「ほほほ。その様子じゃあダニエルから何も聞いとらんな?」 アッサム「親父から?」 僕は首を傾げる。 僕には全く身に覚えのないことだった。親父の言うことは結構覚えているし、自分自身、記憶力もいい方だと思っている。そんな僕が全く身に覚えのないことなのは、聞かされていない確率の方が高い。そう思うのは、自分を過信しすぎているのだろうか。 村長「儂は、普段はここを守っているのだよ。ここを守り、そやつの側にいてやるのだ」 村長は祠を見つめている。その瞳は、何か暖かいものを映しているようだった。それを懐かしむように、哀れむように目を細めながら。 アッサム「側にって……祠の? それとも、その子の?」 村長「……!?」 村長は目を見開いて驚いている。 村長は何にそんなに驚いたのだろうか? 少しして落ち着きを取り戻すと僕に向けていた視線を祠へと移した。 村長「アッサムよ。お前にはそやつが見えるのか……そうか。そうだった。アッサム、お前は【選ばれた勇者】だったな」 アッサム「……ん? ちょ、どういうこと!? 僕、こんな格好してるけど勇者じゃないよ!? 僕は村の酒場、ダニエルの息子のアッサムだ。それ以上でも、それ以下でもない。それは村長だって良く知ってるよね??」 村長の独り言のように放たれた言葉に、混乱した僕は言い返す。そんな僕に再び目を向ける村長。 村長「では、その身につけているものたちは どうしたんだ?」 アッサム「これは、その……ウルに殺られた冒険者からちょっと…拝借して………」 村長「うむ……だがしかし、そやつが見えるのだろう?」 村長の指差す方へ目をやった。そこには先程、祠の後ろに座っていた赤い頭巾を被った女の子がたっていた。 アッサム「……女の子が、どうしたの? 見えるからなに?」 その言葉に、村長は意味ありげに笑った。 村長「ほほほ。では、アッサムは【選ばれた勇者】だ。そやつは選ばれた者にしか見ることが出来んでな。アッサムは、その一人に選ばれたわけだ」 アッサム「……はい?」 村長「喜べ、アッサムよ。お前は今から【選ばれた勇者】として、この世界を救うのだ。そして、そやつを……いや、そやつら(・・・・)を助けてやってくれ」 今の僕には村長の言葉は理解できなかった。頭の中がぐちゃぐちゃで、開いた口が塞がらない。 僕が勇者に? 冒険者の物を身につけただけで?? そんな馬鹿な話ある!? それに、この子が見えるからって…………え? アッサム「………え、その子はお化けか何かなの?」 村長「そうとも言えるが、そうとも言えない。そやつらは想像上の存在であるが、現に こうして存在している。見えない者も多いが、少なからず見える者もいるということだ」 アッサム「……ま、待って。そやつら ってことは他にもいるってこと?」 村長「そうだとも。この世界にある十二の国や村に、それぞれある祠におる。魔物が この世界に出てきておるということは、祠におる そやつらの大切な何かが奪われ、力を失ったということ。アッサム、お前はその大切なものを奪い返してやるのだ」 アッサム「……ん? 十二?? …そんなの僕にできるわけーーー」 女の子「……あなたは、私を助けてくれないの?」 初めて口を開いた女の子の声は、とても澄んでいて可愛かった。フードの下から赤く光る瞳が覗いている。 アッサム「……」 女の子「……別に、強要をしようとか、思ってないから。いいんだよ………ただ、世界が救われないだけ」 そう言った女の子は、どこか寂しそうに見えてしまった。それに世界が救われないとか言われたら、誰も無理とは言えない気がする…。 アッサム「……別に、やらないとは言ってないけど…」 女の子「……え、じゃあ………?」 こちらを見てくる女の子の瞳が小さく揺れた。もう、今更 撤回は出来ないようす。だからって放っておくことも出来ないし……。 アッサム「……君の名前は? 何て名前かも分からない人を僕は助けたいとは思えない…な、なーんて。……でも、名前は教えて欲しいな」 女の子「……そうだよね。それは普通だと思う。……私の名前は赤ずきん、だよ」 アッサム「赤ずきん…か。そのまんまだね。じゃあ、赤ずきんは何を取られたの?」 赤ずきん「……私は………」 その続きを中々口にしない赤ずきん。何か後ろめたいことでもあるのだろうか。しばらく待っていると、覚悟を決めたのか、まとっていた空気が変わる。 赤ずきん「私の、大切な人の声を……大切な友達の声を、取られたの」
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