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災難
Side:雪平
「ちょっとモテるからって……っ何をしてもいいと思うなよッ!!」
そんなこと思ってねぇし。
大体みんなでカラオケ行こうって誘われて行ったら二人きりだったってのも、それがお前の彼女だったってことも、俺の知ったこっちゃねぇし。
溜め息ひとつ残して目ん玉をぐるんと回し、踵を返したらまたも呼び止められて。
「本庄ッ!!いくら顔が良くったってなあっ性格が悪かったら……絶対、いつか…っ!」
興奮したソイツの卑屈な顔が、ヘドが出そうなほどイヤでさ。
「いつか、何?お前の知ったこっちゃねえだろ。ああ、顔がいいよ。ついでに頭もいいし運動もそこそこできる。だから何?」
俺がグイと顔を近づけて睨みを利かせたら、ソイツはふーふー言って「覚えてろよっ!」なぁんてさ。リアルで使う奴いるんだって台詞を吐き捨てて逃げてった。
冗談じゃねえよ。気分悪。
俺が制服のズボンのポケットに手ぇつっこんで呼び出された旧校舎の屋上から帰ろうとした、その時。
パチパチパチ……と手を叩く音がして、「かっこい~ね~!さっすがモテる男は違うわ」って聞き覚えのある声が上の方からした。
出入り口のある搭屋の上を見上げると、俺ら3年の数学担当教師かつ担任の有村理人がひょいと顔を覗かせてスマホを持った手を振ってる。
「何してんだよ……」
「何って。お昼休憩よ」
「またスマホでゲーム?ハッ教師ってのはヒマなんだな」
「休憩時間にどこで何をしてようと私の勝手でしょ。それより、知らないよ~?あんな言い方して」
有村はスマホをケツポッケに突っ込んで搭屋の横にあるはしごを身軽に降りて来た。
「聞いてんじゃねえよ。デバガメ教師が」
「あははは 今時そんな言葉使う高校生がいるんだ」
「目の前にいるだろ。ったく、今日はほんっと最悪!」
ニヤニヤしてる有村を置いて、俺はさっさと搭屋の中へ入った。
「やだなぁ、プンプンしちゃって。生理なの?」
階段を下りてく俺の真後ろから、からかう様な声がついて来る。
「お前な……」
俺はくるっと振り向いて文句を言ってやるつもりだった。のに。
「うわ…っ」
「わっ急に…ッ……」
正真正銘真後ろにいた有村は、まさか俺が階段の途中で止まって振り向くとは思ってなかった。俺もまさかこんなにぴったり真後ろにいるなんて思ってなかった。
結果。もつれ合って階段から落ちた。
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