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生活指導
真紘がビールを買いに出てる間、有村はいつもと変わらない様子で晩飯づくりに取り掛かってた。
まだ4時前っていう晩飯には早い時間だったけど、「今夜は餃子にしようと思って。包むの時間かかるからちょうどいいよ」って。その静かに作業してる顔を見てて……ふと、訊きたくなった。
「想像できねぇんだけど。そうやって工藤螢に作ってやったりすんの?手料理」
別に意地悪な気持ちで訊いたんじゃなかったけど、目元を赤くしてジロリと睨まれて「ノーコメント」とか言われたらさ。
「いーじゃん。訊かせてよ。生活指導も教師の仕事だろ」
「俺の私生活を話すことと生活指導は一切関係ないだろ」
「師の背中を見て学ぶんだって。ああいいな、恋愛って素敵だな。青少年にそう思わせるのも大事な仕事だろ」
「な~にが恋愛って素敵だな、よ。気持ち悪い」
腹立ち紛れか、少し大きいザクッザクッて音が俺を世界に入らせまいとしてる。ぷ~んと漂ってくるニラの香り。途端に腹が減ってくる。
餃子久し振りだな~……って考え事をしてたら、スマホの呼び出し音が割り込んできて、テーブルに置いてたそれを覗いて見れば、掛けて来たのは真紘だった。
「もしもし?」
『もしもし~?あのね~コーラ買って帰ろうと思ったらね、おまけでボトルキャップが付いてんの!ワンちゃんとぉ……ネコちゃんとぉ……ぶたとぉ……』
さっき涙目で怯えてたとは思えない明るい声が告げるとぼけたセリフに脱力する。いや……なんか可愛いっつーか……大人に可愛いってのもヘンだけど。そうだよ。あいつ大人っぽくねえもん。だからだよ。
『……あとね、うし!どれがいい?』
「どれでもいいよ」
『どれでもいいが一番困るの!』
マジでどうでもいいけど言わなきゃ終わらねえから、昼間浜辺を駆け回ってた真紘を思い出して「じゃあ犬」って答えた。
『犬ね!りょうかい!じゃあね~~!』
通話終了を知らせる画面に残る、今日俺のアドレスに新しく追加されたあいつの名前。
「センセー。あいつ、ほんとに24歳?」
スマホをテーブルに置きながら言ったら、有村は「それは俺も疑問」って手元では餃子のヒダを作りながら笑った。
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