疑い

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疑い

工藤は俺を見て自分の疑いが見当違いってことにすぐに気付いたみたいだった。それでも不遜に見えるのは、俺が気圧されてるせいか……こうはなりたくねえよなぁ……嫉妬で見境なくなるって、こんなド迫力のイケメンがさ。 「生徒手帳見せようか?」 俺がそう言うと、工藤は俺をじいっと見て大きく息を吸い込むと、がくっと俯いて息を吐いた。 「満足?」 後ろから入って来た有村が、工藤の前を通り過ぎざまに言った。痛烈。多分、工藤にとっては。工藤は台所に向かって歩く有村の後ろを慌てたようについて行った。 「ごめん。理人……だって……」 「いいから。黙って」 はっと思い出したように工藤は俺を振り返って、不貞腐れたように立ち尽くした。 「だから言ったのに~~螢ちゃん聞かないんだもん~~」 ビール1ケースの上にごしゃごしゃ入ったビニール袋を乗せてよいしょよいしょと運んできた真紘がジトーッとした目つきで工藤を見る。 「一応これでも頑張ったんだよ?りっちゃんと話せば考え直すかと思って、カギ持ってたけどわざわざインターホン押してさ」 「だって理人がすげえ早く帰るから!撮影続きで全然会えてなかったのにさ!」 冷蔵庫の横に荷物を下ろした真紘の後ろから、必死に言い募る工藤。黙ってりゃ自信満々で怖いものなしの有名人に見えんのに、有村の浮気を疑って醜態を晒したコイツはある意味すげーフツーだった。 その額に触れる長い指とか、豊かなまつ毛が影を作る伏し目の横顔の艶っぽさとかは、全然フツーじゃねえけど。 不本意にも目を奪われてたら、ふいに俺の方を見た工藤が、 「俺、工藤ってんだけど……お前、名前は?」 そう訊いてきて。俺がぼそっと名前を答えると、 「本庄くん、ね。悪かったな。失礼な態度取って」 少し赤味の差した頬で俯き加減にそう言った。びっくりして、ちょっと、カッケェって思った。相手が俺みたいなガキでも自分が間違ってたら潔く謝れるんだって。 「本庄くん、なんて水くさいな~~雪ちゃんでいいよ!」 段ボールケースから冷蔵庫に缶ビールを移しながら真紘がカラッと笑って、「なんでお前が言うんだよ」って有村がツッこんで一気に和やか。良かったよ。シュラバになんなくて。
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