512人が本棚に入れています
本棚に追加
28歳成人男子
「言っとくけど本庄のはドレスコード、ギリだからね。成績がいつも上位10位以内に入ってるから大目に見てもらってんだから」
有村の用意した飯を食いながら、何度となく言われた小言を右から左に流す。
「カラーはOKなんだからいいじゃん」
「カッコ明るすぎない事っていう注意書きがあるでしょ」
「そんな主観に頼った校則作る方が悪ィんだよ」
「そーだそーだぁ!雪ちゃんが正し~い!」
ウインナーをぶっ刺したフォークを元気よく上へ振り上げた桐ヶ谷サンが言うのに、「なに馴れ馴れしく呼んでんだよ」と睨んでやったら、
「いーじゃん!ね?俺のことは真紘でいいよ!あ、まーちゃんでもいいよ?」
「誰が呼ぶか」
「雪ちゃん、初対面なのにかなり失礼だよね?俺の方がお兄ちゃんなのに」
同意を求めて真紘が有村の方を向くと、「あんたにだけは言われたくないよね」と、有村に軽く流されてた。
ヘンなの。すげーヘンな空間だ。
日曜の早朝、ガッコーの先生とそのいとこのモデルと飯食ってる。先生んチで。
「あー美味しかった!りっちゃんごちそーさま!」
真紘が立ち上がって、食い終わって重ねてた俺の食器も一緒に流しに運んでくれる。
「あざっす」
余りに自然なそれに素直に頭を下げると、そのまま食器を洗い始めた真紘が「ねえねえ雪ちゃん、今日どこ行く~?」ってカウンター越しに訊いてきた。
「は?」
その疑問の声は、俺と有村の。
「何言ってんのあんた」
有村が遅れて食事を終えて立ち上がり呆れた顔をすると、「ふっふっふ……」とわざとらしい笑い方をした真紘がキラーンって言葉がぴったりの目つきで有村を見返した。
「何を隠そう!今日の俺は螢ちゃんから放たれた刺客!」
真紘がそう言うと、有村がゲッて顔をして……
「こら、ちょっとあんた何を言い出し……」
「今日のデートの約束、ドタキャンされた!って怒ってたよ?螢ちゃん。だからぁ~俺が代わりに雪ちゃん見たげるから!ね?いってらっしゃ~い」
顔を片手で覆って俯いた有村の、ため息ついてる耳の縁がすげぇ赤い。
「へー……先生、彼女いるんだ」
「ううん、彼女じゃな──」
「いるんです!ええ、いるんです!男、有村理人、齢28とくりゃいるでしょ恋人くらい!分かってるだろうけど学校で言うなよ!」
開き直ったのか、真紘が彼女じゃないって否定しかけたのを肯定した有村は、俺にそう言って釘を刺した。
最初のコメントを投稿しよう!