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お誘い
そのまま有村はスマホをつついて何度かやり取りをして、出かけることになったみたいで。
「真紘……余計なこと言ったらデコピンするからね。三歩で忘れるトリ頭に刻み込んどけよ。じゃあ本庄、悪いけど出てくるね。なるべく早く帰るから」
「デコピン!?やだー!」ってムンクの顔をした真紘を睨んでた目をこっちに向けた有村に俺は……
「いいよ、小さい子どもじゃあるまいし。思う存分彼女とデートしてくれば」
そう、ニヤニヤ言い返してやった。有村をやり込められる時ってあんまないから、ここぞとばかりに。
案の定、真っ赤になってさ。あーいい気分。
「なんか用があったらこのバカに言い付けて。体力だけはあるからこき使っていいよ」
有村はそれだけ言って、赤味の引かない顔のままぷいっとリビングを出て行った。
残された俺と真紘。今日が初対面の俺とこの人が、どちらのでもない家にいるってへんなの。
真紘はリビングのソファにごろんと横になって、勝手知ったる家って感じにテレビつけて。
「ねーまじでどうする~?ずーっと家にいる?俺さー家にじーっとしてると体がむじむじしてくんだよね~……ね、ね、ドライブ行かない?海の方とかさ~」
長い脚をソファのひじ掛けに乗っけて組んで、チャンネルを変えながらそんなことを訊いてくる。
「別に気ぃ遣わなくてもいいよ。あんたは出てくれば?俺は期末の勉強するし」
「えっまだ6月の頭だよ?期末って7月くらいじゃない?」
「別に早くてもいいだろ。勉強は学生の本分じゃん」
「えー!?1か月も前からやるの!?俺前日にしかやったことない!」
「お前と一緒にすんな」
ツッコミを入れたものの可笑しくて……堪えきれず笑った。
そしたらがばっと起き上った真紘がガラスみたいな琥珀色の目をきらきら~ってさせてさ。
「雪ちゃん!!笑ったらちょーカワイイ!」
言われ慣れない言葉に反応できなくて固まった。
「いいね~いつも笑っときなよ。コワーイ顔してたらもったいないよ?」
「なんももったいなくねえし。大体男にカワイイとか……嬉しくねえよ」
「えー!カワイイはちょー褒め言葉だよ!男、女関係ないよ~!」
あんまりまっすぐ言われるから恥ずかしくなって、もういいって手で掻き消して、ギプスの足を軽く突きながら俺の部屋に戻ろうとした。
「えーちょいマジで勉強するの?行こうよ、ドライブ……」
年上のくせにおねだりするみたいに言うのがこう……なんかをくすぐられて……結局頷いちゃってさ。
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