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秘密
「絶対絶対絶対絶対絶対内緒だからね……」
しつこいくらいに、真紘は言った。
「分かったってば。で?雑誌名は?」
俺は運転し続ける真紘の横顔をわくわくと見つめた。
「それで合ってる」
「は?それでって?」
「だから。メンズスタイル。工藤螢」
考えて考えて。分かんなくて。
「どういう意味?」
「だから。螢ちゃんは、工藤螢っていうの」
「え、でも…これ…」
俺はスマホ画面の画像検索一覧に並んだ、俺でも知ってる超有名モデルの顔をじっと見た。
合ってる?
螢ちゃんは工藤螢……
先生の彼女……彼女……?
「え、マジ意味わかんない。先生の彼女は?」
「だから、りっちゃんの彼女……じゃなくて、恋人が工藤螢なの」
「え……」
俺は予想もしてなかった答えに束の間フリーズした。
「えーーーー!!!」
「内緒だよ!!頼むよ!!りっちゃんのデコピン、ちょー痛いの!!」
前見て、俺見て、前見て、俺見てって忙しい真紘に「言わねえからしっかり前見て運転して!」って叫んで。沈黙すること10秒……
「先生って…そうだったんだ…」
初めて出会ったソッチのひと。てか工藤螢もそうなんだ……こういう業界、多いって言うもんな……
「うーん……想像つかねえ……先生と、工藤螢……」
「ラブラブだよ~?俺はねぇ、二人のキューピッドになったんだから」
「へぇ~……」
つーかあの有村とラブラブってのが結びつかねえわ。色々無理だわ。
「元々俺と螢ちゃんが友達だったんだけど、1年くらい前かなあ……二人で飲み過ぎた夜にね、りっちゃんに迎えに来てもらって……その時の介抱に螢ちゃんズッキュンしちゃって」
渋滞を抜けて快調に走りだした車窓を目に映しながら、頭の中には真紘が語る通りの場面が展開していく。
「螢ちゃん、情熱的だからさぁ……引き気味のりっちゃんに猛アタックしてね。今じゃありっちゃんも螢ちゃんにゾッコン参っちゃってんの」
「……ん?お前、どこがキューピッドなの?工藤螢が頑張っただけじゃねえの?」
納得いかなくて首をひねりながら訊いたら、
「だってあの飲み過ぎた夜に俺が、りっちゃーん!迎えに来てぇ!って言わなかったら、二人は出逢うこともなかったんだよ?ね!だからキューピッド!」
呆れ気味に運転席をちろ~っと見たら、鼻歌でも歌い出しそうにご機嫌な男が笑ってて、なんか子どもみてーな大人だなぁって吹き出しちまった。
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