42人が本棚に入れています
本棚に追加
/397ページ
「ところで何で女装してるの?」
セツナさんが疑惑のこもった目で聞いてきた。
「ここのスタッフ募集が女性だけと知ったのでつい……気持ち悪いと思うかもですが、女装が趣味なんです」
「……そうなんだ。ちょっと私も騙されたけどね」
微笑するセツナさんの目の色が鈍く光っている。セツナさんは続けて言った。
「やっぱりチラシには男性スタッフも募集って書いておくべきだったんだよ。姉さんのミスだな」
ミドリさんはにこやかに笑んで、聞いていないように俺に視線を向ける。
「頑張りましょうね」
ミドリさんが右手を差し出す。
「よろしくお願いします」
その右手をそっと握り返したーー。
一時はどうなるかと思ったけど、次の日の火曜日からの出勤となった。
すぐに人手が必要だったみたいだ。
怖れていた警察も家に来る事はなかった。
男として、しっかりと仕事ができる。
本当にミドリさんには感謝したい。
火曜日の朝、私でもない俺はしっかりと身支度を済ませ家を出た。
朝、涙を流す事もなかった。
ブックブックをほったらかしにしているけど、新たな一歩が始まったーーーー。
最初のコメントを投稿しよう!