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第二話 さよならの出会い。
それから俺たちは小学生になった。
相変わらずお隣りな俺たちは同じ小学校に行き、これまた同じクラスの隣の席になったのだ。
またずっと一緒にいられるな、と笑いあって喜んだあの日。
はじめは良かった。
俺とアイツはいつだって仲良く遊んでいたし、それをどうとも思わなかった。
だが、アイツには俺の知らないたくさんの友達ができて。
俺たちは無垢を常識人に進化させる知識もついてしまって。
恋という名のついた愛情の矛先の〝普通〟というものを、知ってしまった。
交友関係がズレ、別の相手と遊ぶことが多くなっていった。家族同士の付き合いのレジャーも、他の友達と遊ぶからと、どちらかがいないことが多かった。
身体も成長し始めている。
俺たちはお互いに男を主張しつつあったから、もう二人で手を取り合っているわけにもいかなくなったのだ。
──先に手を離したのは、俺だった。
アイツは少し人見知りで口下手だが、元は誰にでも優しくよく気が利き、黙って面倒を買って出るような男だ。
成長期が来てからはシュッと背も高くなりはじめ容姿も整っていたことから、女子によくモテていた。
対する俺は成長するにつれ目つきが悪いのが顕著になりだし、女子には全くモテなかった。そしてデリカシーもなかった。
そうして隣が当たり前じゃあなくなってきたことを気にかけていた、ある日のこと。
その日の昼休み。
俺は教室で誰が誰を好きだと恋愛ごとを言い合う女子の話を、ぼんやりと本を読みながら聞いていた。
読書小僧の朴念仁なために、恥ずかしながら、恋愛というものをインプットしたのはこの時だったと思う。
単純な俺はキャッキャと騒ぐ女子の話を聞いて、アイツを思い出した。
それから〝アイツはそのうち、好きな人だと紹介しても変だと言われない子と付き合うのだろう〟だなんて、思ってしまった。
考えた途端、俺はとんでもなく嫉妬して、わけもわからず走り出したのだ。
そしてその勢いで校内にいたアイツを探し出し、馬鹿なことを言ったのだ。
とてもとても、馬鹿なこと。
休憩時間の終わりを守り教室に戻ろうと廊下を歩いていたアイツを見つけ、一瞬。ツカツカと詰め寄り胸ぐらを掴んだ俺は──
「お前を一番好きなのは俺だ!」
──と、押しつけがましく吠えた。
その時のアイツの顔は、見ものだろう。
目を見開きゆっくりと周囲を見回す。
それからすぐにカッと怒りで顔を赤くし、恐ろしい形相で俺を怒鳴りつける。
「こ、こんなところでいきなりなに言ってんだッ!? 馬鹿ッ! お前なんて俺はこれっぽっちも好きじゃねぇよ!」
さて、至って正論。
昼休みの終わりかけとはいえ廊下にはたくさん人がいたし、窓も扉も開けっ放しの教室が立ち並んでいたのだから、当然である。
今思えばアイツの反応は当たり前の反応で、罪のないノーマルなもの。
それより少し尖った言い分だったことも踏まえると、俺たちはお互いに大人になる前の浅はかな子どもだったのだ。
だけど、……そうだな。
俺はその言葉を聞いた時、心臓にぶっとい焼けた棒を突き刺されたような感覚だった。電柱ぐらいぶっといやつだ。
──自分は今、人生を幸福に生きる生命線を確かに焼き切られた。
そう思って、笑えなかった。
その日どうやって学校から帰ったのかは、覚えていない。気がついたら部屋にいて、ベッドの中で丸くなって泣いていた。
わかったことは、俺はとっても、とっても、アイツのことが好きだったということ。
そしてアイツはもう、俺をちっとも、ちっとも、好きじゃなかったということ。
柔らかな子どもだった俺は、そんな一言を胸の深いところに食い込ませて、痛い痛いと一人で泣いた。
泣き続けていると〝扉の向こうからもしかしたらアイツがノックをしてくるんじゃないか〟と期待したが、そんなことはなくて。
きっとあの日も俺が無理に扉を叩いて呼んだから、優しいアイツは扉を開けてくれたのだろうと、今更気がついた。
アイツの好きを奪って、俺の好きを押しつけて、馬鹿な約束までさせてしまったあの日の記憶を詰って恥じる。
俺は喉が枯れるまで、この先言いたくならないよう一生分の好きを泣き叫んだ。
そうやってその日は、たくさんたくさん心を散らした。
散らし終わった次の日から、俺はアイツの隣をやめたのだ。
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