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「──上村っ、環の机になにしてんだ?」
「っ」
渡せなかった手紙をせめて机の中にしのばせようとしていると、アイツを心配していたクラスメートたちが俺の腕を掴んだ。
驚いてポカンとする間に、手の中の封筒は一人に奪われてしまう。
俺は焦って「返せよ」と不機嫌な声を出した。クラスメートたちが一歩怯む。
「こ、コレで環に命令するのか? それとも脅しのネタ?」
「は?」
「お前はいつも嫌がる環に無理に絡んでるじゃねぇかっ」
「そうだっ。いじめるのはやめろっ」
「な……、っ」
俺はまったく意味がわからなかった。
脅すなんてしてない。いじめてもない。だけど集団心理と想像や思い込みで至った結論に、胸を張って言い返せず黙ってしまう。
だって確かに、アイツにとって嫌がっているのに何度も声をかけてくる俺は、イジメっ子だろうからだ。
クラスメートからしても元々幼馴染みだと知らず、俺はずっと一人でいたので、突然転校生に固執するのは変だと訝しむのは当然だろう。
苦々しく黙り込んだ俺に、クラスメートたちはそれ見たことかと怒りを増した。
「もうこういうことはやめてやってくれっ」
「!」
ビリッと真っ二つになった俺の手紙。
それはさらに細かく千切られて、ツカツカと近くのゴミ箱に捨てられる。
「教師に告げ口はしない。お前が環をかまわなければそれでいいんだ」
「このことはここでの秘密にする。だからもう、環の嫌がることはしないでくれ」
勘違いとは言えアイツを守らんとしたクラスメートたちは、そそくさと元いた場所に帰っていった。
「…………」
静まり返った教室。
俺はすねた顔をして、教室を出ていく。
馬鹿、勘違いなのに。俺はアイツと友達になりたいだけなのに。
前を向いて、睨むような顔で歩いていく。ズカズカと大股の俺を、廊下の生徒たちはギョッとしてかかわらないように逃げていく。
廊下をひたすら歩いていると、階段を上がってきたアイツと出会う。
だが俺はなにも言わないで、ズカズカと階段を降りていく。
「っ……ポチ……?」
びっくりしたような、焦ったような、つい出てしまったような、小さな声。
そんな声でアイツが俺を呼んだような、都合のいい幻聴を聞いた。
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