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「俺はわざわざ来たからには楽しみたいタイプなんでね。どんなガキンチョが一緒でもね。」
橘さんは手強い。多分私がとるであろう行動も、言うであろう言葉も橘さんの予想の内なのだろう。
言葉遣いはとても悪いけれど、やはり彼は29歳の大人の男なんだわ。
泣いてみてはどうかしら?どうせ一度泣き顔は見られてるんだし……泣けば帰らせてくれるかも。
そう思ったけれど、やっぱり橘さんの前でだけは泣きたくないって気持ちが勝ってしまった。
「分かりました。一緒に行けばいいんでしょう?我慢して行ってあげますよ。」
思いきりツンとした態度をとる。余計な事を言って怒らせようとするのは橘さんだって同じなんだ。私だけへらへら笑ってなんかやるもんか。
「ったく、俺の隣には背の高い美人が似合うのに……」
そんなに私の身長が不満なの?顔が不満なの?
「そうですか。次は是非そんな方と周ってくださいね。」
震える拳を隠して微笑む。泣くな、泣いたら負けだ!
今日はなんて日だろう。なんて拷問だろう。隣の男はイベントを見はじめると私の存在など忘れたように楽しんでいる。
でも素顔で笑う彼は思ったより可愛かった。多分私の見間違いだろうけれど。
そっと橘さんから離れてお手洗いを済ませ自販機で甘い飲み物を買った。
「おいし……」
優しい甘さが口いっぱいに広がって少しだけ幸せな気分になれる。
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